第20話 席替えの意味とは?
半時ほど時間が経ったのち、某王子の音頭で席替えが行われる。因みに現在は三度目の席替えとなる。
正直なところ、席替えの意味を私は見いだせずにいる――人によるのは当然なのだが、色々と面倒くさい人間関係を構築する気分にはなれない。が、一番の問題と言えば何故かダンヘッケ男爵令嬢が先程の席替えで王子のいる卓へ移動した事だ。
後、何度移動があるのか分からないが、私もアソコへ移動指示が来ると思うと流石に勘弁して頂きたいと思っているが、どうなのだろうか。
現在の卓はアイツが王となる前に養子縁組先のオーキッシュ公爵家の次男ダンテリエスとエールナイア侯爵家の侯爵弟次男ディロント、シェバンズ侯爵家長女ディナレーレという面子だ。
因みにオーキッシュ公爵令息ダンテリエスとシェバンズ侯爵令嬢ディナレーレは現当主の子だが、エールナイア侯爵のところは現当主では無く、その末弟の子となる。当然、貴族ごとの順位もあるが、家族内順位というものも当然貴族内の順位に影響する。
当主一族よりも当然低く見られるのは当然で、順位的にはエールナイア侯爵よりシェバンズ侯爵の方が順位的には随分下になるが、シェバンズ侯爵令嬢ディナレーレは現当主の第一子であり、爵位の継承権が高い子と、エールナイア侯爵家の人間ではあるが、継承権が随分と低い位置にいる子でさらに次男ともなれば現当主の子と同列に語るのはあり得ない。と、いう感じだ。
卓上のダンテリエスとディナレーレは和やかな雰囲気と言えるが、ディロントは肩身が狭そうな感じもある――が、何故か彼は私の方を見てニヤニヤと笑うのが気持ち悪い。
「今年は三人もこのクラスに入る者がいるというのは珍しい事では無くって?」
と、ディナレーレがお茶を飲んでカップをソーサーに置いて一息入れてからそう言った。ダンテリエスはそれを聞いて私の方をチラリと見るが、大して興味が無さそうな雰囲気だ。ちなみにディロントが気持ち悪い舌なめずりをしたのを私はキモッと思いつつ無視する。
「確かに例年だと一人か二人いるかどうか――と、いうところなのに三名もいるのは珍しい事なんだろうね。僕としては下位貴族ももう少し頑張って欲しいところだけどね」
彼はそう言いってにこやかに微笑むが表情からは裏に何かありそうな雰囲気があり、貴族的な表現をすれば下位貴族という言葉を出しているが裏を返せば上位貴族ばかりという部分に違和感を持っているのかもしれない――が、確信は無いので、私はとりあえず相打ち程度の笑みを返しておく。
オーキッシュ公爵家は現状公爵家の中では序列一位となっているが、アレが王になる前……前世の頃は公爵家12家の中では真ん中くらいの順位で、派閥も貴族派の中でも革新派と呼ばれている中央集権の態勢を変えようという派閥の貴族だった。が、今の王であるアイツはオーキッシュ公爵家に養子縁組をした上で勇者の称号を得てあの女と結婚して王配とはならず、王になった。
経緯を考えると色々と裏がありそうだが、現在は王を支える王派閥の貴族となっている。まぁ、我が家は中立だしどの派閥の貴族が相手であろうが、可能な限りゆるりとした付き合い程度に留めておきたい気持ちで一杯だ。因みにシェバンズ侯爵家は貴族派でも特に経済を主軸とした革新派よりも緩やかな貴族派で穏健派とも呼ばれる派閥に属している。
ここであの気持ち悪い笑みを浮かべているダンテリエスのエールナイア侯爵家は貴族派に属してはいるが、反王制の過激派に属する貴族で要注意の派閥であるが、過激派と呼ばれている者達の多くはこの20年程度の間で没落寸前だったり、新興貴族の間でもあまり上手くいっていない家が多い為に力もそれほどなく、要注意であっても危険視はされていないので、王派閥にしても他の貴族派閥にしてもあまり相手されていない――が、中立派にも相手をされていないという少し可哀想な人達の派閥でもある。
前世では現在の過激派と呼ばれている者達は結構な力を持っていたのだが、この20年の間に随分と多くの者から力を削がれたのだろう。詳しくは分からないが、何かあったのは間違い無いだろう。
ま、ともかくだ。この卓でも正直あまり居心地が良い場所では無いというのが私の素直な感想だ。
「それにしても、かの英雄がいたシルフィンフォード家の者は皆優秀だと聞いていましたが、イリーナ様も相当なようですわね。引き籠り貴族とも言われている割りには所作も美しいですし」
と、ディナレーレはどこか楽し気にそう言った。なんとも含みがあるように聞こえる――と、いうかあるだろう。混沌とした時代の英雄であり、聖騎士の称号を持つ騎士ユリウスは国内外でも有名な騎士だった。かの英雄と言うのは我が父を思いっきり下に見ている発言で、彼女の言葉を訳せばこんな感じだろう。『昔は英雄がいた家のようなのは、あんたも所作とかみれば優秀そうだけど、しょせん引き籠り貴族よね?』と、言っているのだ。
なんとも腹立たしい感じはあるけれど、返事をせずにいるのも問題だろうと私は気付かれないようにゆっくりと息を吐いて口を開く。
「ディナレーレ様ほど洗練はされておりませんが、所作を褒めて頂きありがとうございます」
正直、私の所作が美しいのは前世からの教育の賜物なだけだ。聖女とは所作も当然常に多くの者達から見られるのだから、当然やらなければならないのだ。私は内心舌打ちしたい気持ちを腹の奥にしまい込みながら、出来るだけ柔らかさを意識して笑みを浮かべる。
ディナレーレは満足気な笑みを浮かべて、スッと扇で口元を隠す。
「まぁ、こういった場くらいしか話すことも無いでしょうが、短い時間ですが仲良く致しましょう」
と、彼女はそんな事は全く思ってもいない雰囲気を隠しながらそう言うのだった。なんとも上位貴族の子女らしい感じだと思いながら私も貴族子女らしく感情を隠しながらにこやかな笑みを返すのであった。
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