第19話 面倒事には関わるな

 クラスの親睦会という名の盛大な学生だけの茶会という、最高に面倒臭いイベントだという事を知ったのは家に帰ってから姉に教えて貰ったからだ。


 因みにどうやら我が家は最上位クラスの常連下級貴族という立場らしいのだが、我が家が中立派とか色々と言われる理由は学園での兄姉達の行動が一部関係しているらしかった。


 姉の話によれば、過去に次兄エリックが因縁を付けられた第二王子の側近を随分と可愛がってあげたらしい。見た目は大人しい雰囲気に見える我が家の兄達も漏れず武闘派のシルフィンフォード家なのだ。姉の時も他の下位貴族にちょっかいを掛けていた上位貴族を色々な方法で守る為に尽力したらしい。


 と、いうか私はそんな事する予定は無い。まぁ、関係値次第だとは思うが――ダンヘッケ男爵令嬢は無い。これだけは断言してもいい。アレは何か分からないが現王妃のアイツと同系統のヤバさがあるのだが。


 現状を考えると良くない、本当に良くない。と、いうか確かにこのテーブルに配置された面子を考えれば当然そうなるのだが、何故かあの娘は私にガンガン話しかけて来るのか謎だ。


「――と、いうわけで聞いてますか?」


 うん、残念ながらどの男が好みだとか、王子様素敵なんて事は思った事も考えたことも無い。


「残念ながら聞いてはいましたよ。しかし、このような場で話す話題では無いと思っていただけですわ」

「なっ、なんですって?」


 ダンヘッケ男爵令嬢は凄く驚いた表情で声をあげた。ちなみに周囲から凄い視線がこちらに向かっている。同卓に付いているマヒューズ子爵令嬢エリアーナと不運にも巻き込まれているカリート侯爵令嬢リリアンヌは貴族らしく表情を隠しているが、苦笑している。と、いうよりもリリアンヌはダンヘッケ男爵令嬢に対して随分と蔑んでいるような雰囲気がある。


「ま、まぁ、イリーナ様も多少のことではありませんか、こ、このようなお茶会にも慣れていないようですし、もう少し言葉を選んでみてはどうでしょう?」


 と、リリアンヌが言ったが、彼女の言葉を訳せば『お前も茶会に慣れてねーだろ? 下世話な話くらい黙って聞き流せ』だ。しかし、私に対して妙な緊張があるのがなんとも不可思議ではある。そんなに私ってば威圧的――と、思えばあれだ。姉がボコボコにした相手はカリート侯爵家の人間だったハズだ。ふむ、故にビビっているのかもしれない。


「確かにリリアンヌ様の言う通りかもしれませんわね。しかし、リリアンヌ様も不運でしたね、他の席のように和やかな雰囲気とは程遠い場所へ来てしまったのですから」

「……え、ええ、確かにそうですわね。他の席でもこちらと同様に楽し気な雰囲気で過ごせそうですわ」


 確かに他の卓は別の意味で面倒臭そうではある。アイツの息子がいる席は側近達に固められているようで、あそこはどこから見ても和やかな雰囲気ではある。他の席でも一部は和やかに茶会を行っているとは思う。しかし、貴族達には幾つもの派閥があるし、そもそも貴族が持つ爵位とは国内のランク付けなのだ。例えばリリアンヌのカリート侯爵と侯爵家でもっとも上位に位置するアーバリア侯爵家のように同じ侯爵家であっても、順位的にはカリート家の方が下位に位置する。


 まぁ、リリアンヌがこの席に配置されたのは別の意味もあるのだろう。おぼろげだが、カリート家は順位的には真ん中くらいだったと記憶している――が、同じ家の中でもその子らにも順位付けが確実に存在するのだろう。なんにしても、面倒な事この上ないな。


「リリアンヌ様も王子様にご興味がおありですか?」


 うん、ダンヘッケ男爵令嬢は空気の読めない子。でも、このクラスに入ってこれるのだから、学業においては優秀な子なのだろう。リリアンヌは表情を隠す為にソッと扇を開いて笑う――当然、目は笑っていない。


「ミシュリーン様は随分と上昇志向の強い方のようですわね。確かに、かの方の周囲に自身が居る事が出来ればと思う者達は多いでしょうし、当然、我が国の貴族として王族の為になるのであれば――と、思うのは当然ではありますわね」


 リリアンヌは本当に貴族らしい裏のある言葉をダンヘッケ男爵令嬢に投げつけたが、さすがに『下位貴族の癖に上位貴族に色目を使うんじゃねー、自分達でもそうそう王子達の周りに行けないのに、自国の貴族としての立場は当然王族の為にはあるが、お前の立ち位置理解してる?』と、言っているのはあの子は全く理解出来ていないぞ。


 と、私は思いつつも微笑みの仮面が剥げないように気合を入れる。ここで私がリリアンヌの言葉に反応するのも色々とマズいだろう。多分だが、この卓にいる侯爵家の人間というのは下位貴族の監視という面もあるのだろう。


 我が家は中立派の家だが、マヒューズ子爵家、ダンヘッケ男爵家は新興貴族が多い貴族派閥に属する家でこの卓には王族派の下位貴族はいない。当然、リリアンヌのカリート家はバリバリの王族派貴族だ。と、いうことは各卓でも派閥内の情報収集もあるのかもしれない。


 と、いうわけで私はこの卓上では誰にも媚びず、一定の距離を保つのが最善だろうと思う。


 なんとも面倒臭い話だ。

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