第18話 親睦会? なにそれお美味しいの?
クラスの担任教師であるリンデリア・フィリハ・エーデベル・デュークスが教室を去る際に不穏な事を言った。
「本日はここまでだ。明日は各科目担当の紹介となる初授業だが、規定通りの時間では行わず短縮となる――まぁ、小一時間で終わるだろう。その後、クラス内の親睦会がある。ちょっとした茶会のようなものだ。では、また明日」
そう言って、彼女は教室から去ってしまう。今日はざっくりとした説明だけで終わるとは聞いていたが、ざっくりどころか随分と適当な説明で終わってしまった。
そして、騒めきが教室に戻ってくると同時に例の王子ご一行が席を立ち教室を出て行く。講堂の時と同様に立場が上の者から退場して行くのが慣例となっているのは暗黙の了解なのだろう。
私は様子を伺いながら自分の番がやって来るとメルビーがスッと立ち上がり「お嬢様」と、声を掛けられ私も立ち上がり教室を後にする。当然の話ではあるが私以外には教室には優秀者として、このクラスに席を持つ事になった二人の下位貴族の子達以外は既に教室から出て行っている。
教室を出て、廊下を進んでいると後ろから私の事を追いかけて来るような気配に私は足を止める。
「お嬢様、どうされました?」
「ええ、ちょっとね」
と、苦笑しつつ私はそう言って後ろへ振り向く。突然、足を止めて振りむいた事で私を追いかけてやって来た少女達が驚きの表情をして焦ったようにたじろいだ。
「何かご用かしら?」
基本的に貴族というモノは立場が上の者から話しかけられなければ話しかけるのはあまり褒められた行為では無い。なので、私は彼女らに手を差し伸べておいたのだ――が、そんなに驚いた表情をされるのも少し心外である。
「あ、あの……わ、私はマヒューズ子爵家次女エリアーナと申します」
「わっ、私はダンヘッケ男爵家のミシュリーンと、と申しますっ」
エリアーナと名乗る少女は明るい栗色の少しクセっ気のある髪の少女だ。快活な感じよりもどちらかと言えば大人しい雰囲気の少女だ。もう一人のミシュリーンは少し変わった薄い色の赤髪でツインテールの少女だ。こちらの娘は愛嬌のある雰囲気の少女だが、なんだろうか――不思議な雰囲気がある。
「イリーナ・キーンベルク・シルフィンフォードです。これから三年間、同じクラスで学ぶ仲として宜しくお願いしますね」
まぁ、特に仲良くするつもりは無いけれど、とりあえず不仲になるよりは仲良くしておいた方が良いとは思う。しかし、上位貴族達の壁として使われるみたいなのは御免して頂きたい。
「はいっ、出来れば仲良くして頂きたいと思ってます」
と、ダンヘッケ男爵令嬢に言われ私はとりあえず無言で微笑み返す。なんというか、この子は成績優秀ではあるだろうが、少し貴族的な雰囲気が無い感じがあり、関わると面倒に巻き込まれそうだと思わず思ってしまう。マヒューズ子爵令嬢も一瞬小さく苦笑したのも、何となく彼女も感じているのかもしれない。
「で、結局のところお二人はどういったご用なのかしら?」
とりあえず、私に声を掛けようとしてきた理由はキチンと訊いておかなければいけないだろう。
すると、ダンヘッケ男爵令嬢がマヒューズ子爵令嬢を押しのけるように前に出て来る。その勢いに私は思わずたじろぎそうになるが、グッと堪えて表情にも出ないように笑顔のまま様子を伺う。
「明日は親睦会がありますよね? 私ってば、あまり貴族の皆様が集まるような場に出たことが無いのでとても不安なのですが、イリーナ様はなんというか場慣れしていそうですから、少しお話を聞ければなぁ。なんて、思うんですけど……」
と、彼女は捲し立てるようにそう言った。
なんというかマヒューズ子爵令嬢は申し訳なさそうな視線を私に向ける。彼女もどうやらダンヘッケ男爵令嬢の強引さに無理やり付き合わされている感じなのか。と、私は思いつつ明日行われる親睦会に思考を向ける。
上位貴族ばかりの茶会というのは考えるだけで面倒という考えしか出てこない。まぁ、適当に過ごせばなんとかなるとは思うが、そう言えばドレスなどの用意は必要なのだろうか? うん、授業の一環と考えれば学生服で良い様な気もする――が、メルビーに確認をした方がいいのかもしれない。
と、私はメルビーに視線を向けると彼女は小さく頭を下げ礼をしつつ静かに言うのだった。
「親睦会は各クラスによって内容が変わると聞いております。学生服でも問題御座いませんが、上位貴族の方々は茶会に相応しい恰好での参加をするハズですので、お嬢様もそれに合わせた方がよいと思います。旦那様や奥様からも茶会用に幾つかのドレスを用意してあるとお話をされていたハズです」
「――確かに言われていたわね。分かったわ。ありがとうメルビー」
「いえ……」
メルビーはそう言ってから再び姿勢を正し、気配を消しつつ周囲の警戒をするような視線を匂わせた。と、いうか彼女達の従者に対しての警戒か。私はそんな事を考えつつ、ダンヘッケ男爵令嬢へ視線を向ける。
「残念ながら、私は幼い頃からあまり身体が強く無かったので、公に開催される茶会などの経験はあまりありませんから、私から話を聞いても得る物はありませんよ」
と、私がそういうと彼女は不思議そうな表情をして首を傾げた。なんだか、その感じは凄く不快だったが私は笑顔という分厚い仮面でそれを誤魔化すのだった。
ただ一つ、思う事もある。
親睦会? なにそれ美味しいの?
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