第17話 変わった教師

 現れた教師は長身の女性で身のこなしから貴族出身者なのは見てわかるほどに立ち姿なども洗練されていた。まぁ、このクラスの多くは上位貴族になる為に相当な身分でなければ務まる事はないだろう。


 しかし、貴族家で魔法使いというのも中々に珍しい事を考えるともしかすると宮廷魔導士の職に就いている者なのかもしれないが、私の記憶にある宮廷魔導士というのは変人ばかりだ。


「皆がこの教室に集まって頂き感謝する。さて、私はこのクラスの担任となるリンデリア・フィリハ・エーデベル・デュークスだ。よろしく頼む」


 と、彼女は眼鏡をクイッとワザとらしく位置を直し、よく通る声でそう言った。デュークス家ということは、あのジジイの親族ということは貴族であり、変人ということか。


 私はそんな事を思いつつ周囲の様子を伺う。


 上位の貴族ほど後ろ側の席に座っているので、雰囲気でしかわからないが不穏な感じはあるが、特に戸惑っているとか恐れているとかも無いようだ。


「さて、ここから三年間は私が皆の担任となるワケだが、私の専門は魔法となるから、私が授業で会う事はあまりないだろう」


 おや? 魔法が専門であれば魔法学の授業は担当するのではないのだろうか? よく分からないな。


「であるが、様々な行事や演習の指揮に関して私が担当となる。君達はこれから多くの時間を共に過ごす事になるが、出来るだけ私に迷惑を掛けないように――例えそれが王族、上位貴族であろうが関係は無い。覚えておくように」


 へぇ、上位貴族に向かってその物言いが出来るリンデリア・フィリハ・エーデベル・デュークスという人物は随分と頭がオカシイ人物なのだろうか?


 いや、そういえばデュークス家は国内でも特別な位置にいたハズだ。前世の記憶でも宮廷魔導士の中でも古くから魔法を極める為に研究を行う血族であり、宮廷内でも絶大な権力を持っていた。


 実際、魔法使いでもあのクソジジイは世界でも数人しか扱えない特殊な魔法を使え、儀式を利用した超大規模魔法なんてのもあったハズだ。魔王との戦いで一度見たことはあるが、アレは人が扱うには過ぎた魔法だった。


 当時は差し迫った状況であったというのもあったが、一度の儀式で目的を達成するほどの魔法を放つ事が出来たが、参加した魔法使いの半数が廃人になった。あまりにも大きな犠牲の上で行われる魔法なんてものは正直ってクソとしか言えない。


 が、当時は魔王軍との戦い――と、いうよりも人類の生存圏を賭けた戦いだったからこそだ。現在は使用する事を禁忌とされていると、文献にも書かれていた。


「まぁ、ともかくだ。このクラスは特に優秀な生徒達が集められている。当然、くだらない問題を起こす者は一人たりともいないと私は確信している。もし――もしもだ。そんな愚かしい人間が存在したとして、それが上位貴族であろうが関係無く処罰の対象となる。なぜならば、私の安寧を邪魔したことになるからだ。それだけは覚えておくように。では、明日からの授業に向けての説明をしていこう」


 と、彼女は魔力による圧を掛けながらそう言った。なんとも剛毅な風格に私は面白いと思いつつも、面倒臭いタイプの変人だと改めて思うのであった。


 しかし、毎年このクラスに優秀な下位貴族が入っているハズな事を考えると、起こりうる話を彼女は理解しているが故に先に釘を刺して来た――と、いうことだろう。ま、悪い事では無いのだが、理由が中々に面白い。


「まず、明日からは授業が始まるわけだが、細かい科目の内容や教員の紹介は担当者から行われるだろう。ただし、気をつけてくれたまえ、基本的に三年間はクラス替えなどは無いが、下のクラスへの移動はある」


 と、彼女が言うと教室内では小さな騒めきが起こる。それを気にするような素振は全く見せずにリンデリア・フィリハ・エーデベル・デュークスは言葉を続ける。


「一年間を通して一定の悪評を受けた生徒は下のクラスへと強制的に移動となる。学力、素行、演習においての成績がこのクラスが求める基準以下である者が対象だ。この王国において私を超える魔法研究社はいないのだ。その私が担当するクラスから下のクラスへの移動など発生することは許さんからな」


 中々のプレッシャーですわね。学力や演習での評価は理解出来るが、素行も入るわけか。とりあえず、問題を起こさないように過ごすのが一番ということか。


 上位貴族達の方が問題を起こしそうな雰囲気があるけれど、彼等彼女等は見栄を大事にしているだろうから、問題があると家での序列に影響が出るだろう。故に問題は起こさない可能性は高そうだ。


 で、あればいいのだが、後方から訝しい雰囲気が伝わってきている事を考えると教壇に立っている彼女に対してあまり良い感情を持っていないということなのだろう。


 それにしても、デュークス家の人間か。あのクソジジイも相当な魔法使いではあったわけだが、彼女も当時のクソジジイと似たような雰囲気を持っている事を考えると、相当な使い手だと考えた方がいいだろう。


 しかし、前世でも私は魔法使い達が使うような魔法全般あまり得意では無かった。今世ではもう少し扱えるようになれればよいとは思っているが、どうだろうか。

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