第16話 色々と、しくじったようだ

 しくじった――


 そう思ったのはクラス分けが事前に行われた筆記試験を真面目にやってしまった結果、上位貴族がワラワラといるクラスに振り分けられてしまった。


 しかも、メルビーの話によれば例の王子も同じクラスだという話だ。本当にしくじった――もっと適当にやっておけばよかった。と、言いたいところだが、あんな簡単な試験で自然に間違えるのは逆に難しいまである。


 と、いうか前世の記憶になるが、私がいた孤児院の同じ歳くらいの子供達なら普通に全問正解するレベルなのだが、もしかすると貴族連中というのは思ったより阿呆ばかりなのかもしれない。


 まぁ、現在の学園とは学業的な部分よりも貴族社会を学ぶ為の場であり、上位貴族に至っては嫁探し婿探しの場と言っても過言では無い場所だ。正直なところ学問などどうでもいいのかもしれない。


 が、成績上位の者だけが集められているクラスで下位貴族がいるというのは、あまり無いことらしい。今回、同じクラスでは我が家よりも下の家の者がいたおかげで、注目されるには至っていないと思われるので、そこは助かったといえるかもしれない。


 が、しかしだ。


 第四学年になるまでクラス替えが存在しない事を考えると、三年間は確実に彼等と同じ空間で生活しなければならないのだ。ハッキリ言って面倒臭いことこの上なし。


 そんな事を思いつつ、メルビーの案内で教室に入り指定された席へ座る。ちなみにメルビーは使用人として私の隣に用意されている席へ座る。


 約20名ほどが学ぶには教室の広さが妙に広いのは使用人用の席も用意されているからで、クラス内で使用人が居ない騎士階級の者達が集まるクラスなどはここまで広くないらしい。


「貴女、教室に入って来るなり席に座るとはどういうつもりなのかしら?」


 と、私が席に着いて考え事をしているのを邪魔するようにそんな言葉が投げかけられた。とりあえず、仕方なく私は小さく息を吐いてから視線を声が聴こえた方へ向ける。


「順番的な位置からして、貴女は伯爵以下の出身者だと思うのだけど、上位貴族の皆がいるところに来たのだから挨拶するのは当然だと思うのだけど?」


 彼女はそう言った。確かにそれはそうだ――が、まるで下等生物を見るような視線に私はウンザリとした気持ちになる。あー、前世でも貴族というのはこういう感じだった。


 私のしくじりに気が付いたメルビーも焦りの色を見せていたが、私は小さく微笑み、席を立ち上位貴族に対しての礼を行う。


「こういう場に慣れておらず、申し訳ありません。この場からで申し訳ありませんが、わたくしはシルフィンフォード伯爵家の次女、イリーナ・キーンベルク・シルフィンフォードと申します。以後お見知りおきを」


 と、教室に響くように声を出し再度礼を行ってから、席に座った。正直、相手の返答を待つ気は無い。何よりも面倒臭いからだ。


 それに理由は分からないが、私に文句を言って来た子も妙に驚いて固まっていたようだし、また文句を言われても――面倒だけど放置しようと私は思ったのだ。


 面倒な事があったとしても、危害が加えられるような事があったとしても、彼等に私をどうにか出来るとは到底思えなかった。と、いうことろが正直なところだ。


「あ、あの……お嬢様。大丈夫でしょうか?」


 と、小声でメルビーが言ってくるが私はニッコリと微笑んで「問題無いわ」と、答えておく。まぁ、彼女からすれば不安かもしれないけれど、幾らなんでも学園内で問題を起こすような事はしないだろうし、私から問題にするような事も無い。無視しておけば、大丈夫だろうと思う。


 そんな事を思っていると、上位貴族が話題にしていた子爵家と男爵家の令嬢がやって来て怯えた風に会釈をして、席に着いた。


 が、上位貴族の者達は何も言わない――ん?


 挨拶しないのはダメなんじゃなかったのか? と、私は表情には出ないように心掛けつつ訝しく思った。すると、後ろの方で小声で何やら会話をしている者達がいるようで、私はソッと身体強化をして、その会話を盗み聞く――いや、盗み聞くなんてお行儀が悪い。聴こえてしまったのだから、仕方ないって事でいいだろう。


「今入って来た者達が噂の娘じゃない……アレがシルフィンフォードの者だなんて……」

「わ、私だって知りませんでしたもの……後々面倒にならないようにソッとしておきましょう……」

「そ、そうですわね」


 なんだか、いびる相手を間違えたようだ。しかし、我が家の者と分かって尻つぼみになる理由が全くもって分からない――が、我が兄姉達の影響などもあるのかもしれない。


 さすがに我が両親が関係しているとは少し思えないが、うーん。この辺りは追々情報を集める必要がありそうだな。


 それにしても、このクラスに入る事を許された下位貴族の娘達が上位貴族から目を付けられるというのは仕方ない――のかもしれない。まぁ、私もそこに入っているわけなんだけど、やはり、しくじったという気持ちはどこまでも拭えない。


 そんな事を考えている間に教室に教師と思われる人物がやって来て、注目を集める為か手をパンパンと叩いた。


 ん? これは風の魔法を使って音を教室中に広げたみたいね。パッと見た魔力量は分からないが、魔法の制御に関してはかなりの腕前を持っている人物のようだ。

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