第15話 英雄の子
壇上に現れたかの王子は王族然とした雰囲気は確かに王族として育てられた男の子という感じだ。だが、アイツによく似た雰囲気を感じて私はとても嫌な気持ちになる。
他の王子は見ていないが、噂では皆アイツによく似た雰囲気だという話を考えると出来るだけ関わらない方向で生きていたい――と、言っても我が家は伯爵家だし古くから王家とは深く関わらない中立的な家だというのも知られているハズだから早々に関わることは無いだろう。
『私はデュカーク・ニル・デューラ・オーキッシュ・エリセウス。この国の第三王子である――』
と、よく通る声が聴こえ、周囲の女子達が沸き立つ。うーん、正直言ってどこにそんな要素があるのか、私には分からない。
『未だ、私は勇者の称号は得ていないがこの学園で学び、より強さを求めるに相応しい者となり、国の為に貢献していきたいと思っている。皆も、私と共にこの素晴らしい学園で学び、我が国にとって益になるように心がけてくれたまえ』
なんとも偉そう――いや、実際王族だから偉いともいえるが、王族が勇者というのも如何なモノかと私は思う。それに現王であるアイツが勇者でその息子達も皆勇者? まだ、アイツは魔王軍との戦いにおいて最前線で戦って来た事を考えれば勇者の称号を持っていることはまだ納得出来るが、その息子達は
まったく、勇者の称号を安売りするなどもっての外だと思うのだが、教会上層部は何を考えているのか。
そんな事を考えている間に王子の挨拶が終わったようで、彼は壇上から降りて行く――が、一瞬だけ彼と目が合った気がして私は思わず首を傾げた。
アイツ、何故私を見た? しかも、アレは不可解な視線だった。
付近の女子達が「こっち見なかった?」とか、なんとか言っているが、アレは明確に私を見た視線だった。それにアレは好意では無く、どちらかと言えば嫌悪? なんだろう……まぁ、気のせいということにしておこう。
そして、再び胡散臭い感じの男が壇上に現れる。あの男はなんというか底が見えない雰囲気がより怪しさを醸し出している。学園の入学式を取り仕切っている事を考えれば、それなりの地位にいる人物なのだろう。
『さて、この後はクラス分けの発表がある。既に各使用人達には通達しているので、使用人を連れて来ている各家の者達はその者達の案内でクラスの方へ向かいたまえ。使用人を連れて来ていない者達については講堂の外に掲示してあるので各自確認するように――では高位の者達から退出するように』
胡散臭い感じの男がそう言うと、王子が自席から立ち上がりそれについて行くように公爵家、侯爵家の者達が続いていく。
思っているより人数が多いことに少し驚きつつも、この国の問題を感じてしまう。貴族家が多いこともあるが、その家に兄弟姉妹が多ければ多いだけ、得という制度になっている。
他国では家を継ぐ者以外には爵位が移らない。当然、この国でもそうではある。しかし、例えば公爵家だとして、長子以外の子も公爵同等の権力行使が可能で公爵弟だとか、そういう風に呼ばれる。女子は当然他家に嫁入りする事が多いので、男子に比べれば女子の地位は低いと言えるが、嫁に行かずに婿を取る者も多くあり、なんたら公爵姉とか公爵妹みたいな人物が多くいる。
故にひとつの公爵家だとしても、その兄弟姉妹の子も公爵家の子として育てられる所為で上位貴族と括られる人間だけでも家の数よりも遥かに多いパターンが結構あるらしい。
下位貴族ではこの現象が起こっていないのは別の理由がある――いや、上位貴族が多いのも下位貴族が食い物にされるような仕組みがある所為なのだ、どう考えても。
前世の頃は魔王軍との戦いもあり、私は教会側の人間だったというのもあって、あまり気にしていなかった話ではあるが、下位貴族が上位貴族に昇爵することも基本なければ、上位貴族が降爵することもありえない。そして、税が下位貴族から上位貴族に流れ、最終的に王家へ徴収される仕組みのせいで下位貴族で設けている家などほぼ無いのだ。
当時、魔王軍に占拠された者達が元の土地を離れて新たな土地を与えられたことに関して、ほとんどの土地持ち領主達は喰いついた。が、これも上位貴族達の罠で自分達の土地を切り分けた理由から上納金を上げたのだ、それによって領地返納した貴族も多々いる。メルビーの実家シフォン家が現状維持にこだわっている理由もたぶん、このあたりにあるのだろう。
しかも、徴税についてはその家に属している血族一人当たりに掛かってくるので、下位貴族からすれば家族が多いとかなりの額を収める必要が出て来る。上位貴族は下位貴族から収められた税収から中抜きをして王家へ流しているが、上位貴族の殆どが豊かで下位貴族とは比べられないほどの収入があるせいで全く痛まないのだ。
と、いうか……この国はよく持っているな。と、思ってしまう。魔王軍との戦いの頃は他国や教会、その他組織から随分と金をせしめていたハズだが、現在はそれが無くなって国の収入は減っていると思うのだが、どうなっているのやら。
ま、そんな面倒なことに首を突っ込む気はないと思いつつ、私も付近の子達が立ち上がるのを見てからスッと立ち上がり、講堂を後にするのだった。
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