第14話 王立ギンバリン聖王学園入学式
王立ギンバリン聖王学園は王都の外れにあるのは様々な理由が存在する。元々はラミリア教会の司祭であり歴史上の聖人ギンバリンが始めた聖職者の為の学び舎であった。
いつしか、様々な立場の人達が学びに来るようになり、巨大な学園となっていくのだが、数百年前に現れた魔王の登場により学園の様相が変わっていく。
教会側は魔王軍との戦いの為に教会が聖女の為に作った組織や教導教会が出来、ギンバリン学園から教会は手を引きエリセウス王国が運営を引き継いだ為に貴族の子息令嬢が通う学園と変わった。
こちらも、元々は国力増強の為に騎士の戦闘訓練や魔法使いの魔法研究などを行う場として多くの英雄を生み出した――のだが、前世の段階で既に貴族社会のひとつして利用されていて、小さな貴族社会のような世界だと仲間のひとりから、そういう話を聞いた事がある。
まぁ、それを考えると色々と不安な気持ちになるわけだが、現在私は今年度入学の子供達と一緒に講堂に用意されている席に座って小さく息を吐いた。
後でメルビーに吐いた溜息の数を報告されそうだと思いつつ、早く入学式なるモノが終わらないかと考えていた。
因みにメルビーは使用人やメイド達の待機所に集められ、学園生活で主について行ける場所や様々な決まり事の説明を受けるらしい――が、メルビーは嫌な顔などせずに逆に楽し気であったことは言うまでもない。
そんな事を考えていると、壇上に一人の老人が立ち大きな咳払いをする。そして、私はその老人が誰だか即座に理解をした。
『ようこそ、エリセウス王国の未来を背負う若人たち――』
と、よく通る声が魔道具を通して講堂中に響く。前世で彼は宮廷魔導士長をしていた大魔導師の称号を持つカミオン・デミハリオン・デュークス氏だ。この壇上に立つということは彼が現在の学園長ということだろう。前世でも彼は随分な高齢だったと記憶しているが、まだ生きていたのか。と、いうのが私の感想だ。
因みに彼が長々と話しをしている内容は大した話ではない。元々彼は非常に話が長いが、内容的に要約すればすぐに終わるモノだ。特に魔法理論の話になると無駄に長くなって面倒極まりない。
聖女の時に聖魔法の研究に興味があるので話を聞かせて欲しいという依頼があって受ける事になったが、彼の提唱する魔法理論の話を延々と聞かされてウンザリした。しかも、謎な事に気に入られてしまったのか、度々教会経由で呼び出されて長ったらしい話を聞かされた。
『で、あるからして――』
うん、まだまだ続きそうだ。周囲の様子を見てもうんざりした雰囲気が微妙に漂っている。
それにしても、前から思っていたけれど――この国の貴族は数が多い。公爵家だけでも12家存在する。上級貴族だけでも100家以上あって、全ての貴族家を含めれば400家以上あるのだ。しかも、隣国の国境付近には伯爵家が置かれていて多くの下級貴族は各公爵、侯爵領と各伯爵領の間にある。
魔王軍が占領していた北の地には本来多くの下級貴族が治める領地があったのだが、魔物の氾濫や魔王軍の侵攻によりその領地を失った――いや、現在も領地自体は残っているが、我が国の領土である北の地は不毛地となっている。
私達が魔王を倒し魔物の氾濫が止んだとされているが、未だに他の土地に比べて魔獣や魔物が多く瘴気に侵された土地が癒される事は無く荒れ果てた土地がただ広がっており、そこに住む者はほぼ居ない。
メルビーの実家が貧乏なのもコレが影響されていて、我が家と共に魔王軍が占領していた地と面して――いや、彼女の実家は領地的に5割以上が魔王軍に占領されていた場所で現在も殆どが不毛地となっている。
我が家も多少の影響はあるが、完全に占領されて不毛地となっている家はまだ諦めがつくが、中途半端に領地が残っている場所は本当に大変なのだ。
しかも、国側にも問題があって、領地の大きさによって治める税が変わる法律があり、完全に魔王軍が占領されていた領地の多くは領地を持たない貴族となっているのだが、メルビーの実家であるシフォン家は農地が多くあった場所が不毛地となっているのだが、税に対しての考慮がされないという残念な状況にありながら領地返納せずに領地を守っている。
代々の土地を守るのは大事だと思うけど、自分達が食っていけないのは問題だとは思う。しかも、既に何代も時間が経っているのに貧乏から抜け出せていないのも問題だと思う。
どうにかしてあげたい気持ちはあるが、私に出来る事なんて無いのがまたモヤっとするところだ。
『――と、いうわけで君達も頑張って貰いたい』
と、話の長い老人のありがたい説法が終わった事を感じて周りに合わせるように私は適当に手を叩いておく。多くの生徒も同じような表情をしている事を考えると皆、なかなかに空気読みの上手い奴らが多いようだ。
そんな事を考えていると次に登壇したのは何処か胡散臭い雰囲気の男だった。
『学園長の挨拶は如何でしたか? とても素晴らしかったですねぇ。次は初学年代表であられるデューク第三王子殿下からお言葉を頂きます。皆、姿勢を正ししっかりと聴いておくように――』
そう言って男は壇上を降り、アイツの息子? である王子が登場するのだった。
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