第12話 お披露目会で貴族達は踊る
お披露目会に使用される宮殿は城内の建物では2番目に大きい物になる。これは前世でとある貴族に自慢気に話された嫌な記憶だった為に覚えている。
因みにその貴族は近年没落したそうだ。ってか、お前はこの宮殿を自慢気に語っていたが、何も関係無いじゃないか。と、激しく文句を言いたい。
まぁ、そんな事はどうでも良い。今は父と共に会場の端のほうで目立たぬ様に心掛けているところなのだ。
「なんとも人が多いですね」
私が何気なくそう言ったのを父は小さく笑う。
「今回のお披露目会は参加人数で言えば少ない方だ。侯爵以上の方々はどの家も来ているようだけどね」
「そうなのですか?」
「ああ、今回は第三王子殿下のお披露目会だからね。あまり王家に関わりのない貴族に取っては大きな利にならないと判断されているのだろうね」
と、父は小声でそう言った。確かに平和になった世と考えれば王都に魔物が襲来するなんて事も無いだろうし、余程の病や事故が無い限りは第一王子や第二王子が突如天に召されるなんてことも無いだろう。
ただ、上位貴族は皆来ているというのは少し疑問だったりする。下位の貴族からすれば自身の娘が婚約者候補になる可能性も無く政治的立場も弱い事を考えれば擦り寄る必要も無いということか。
「我が家は王家との関りがあるということですか?」
私がそう訊くと父は小さく微笑んで手に持った飲み物を呑み干し、付近にいた給仕にグラスを手渡しから周囲の様子を確認するような雰囲気を見せた。
「我が家は聖騎士を代々輩出する家ではあるんだ。だから王家というよりは教会との繋がりの方が強い。まぁ、私は元々家を継ぐ予定では無かったのだけどね……まだイリーナには分からないかもしれないが、我が家は王国内での立ち位置は常に中立なんだ。だからこそ、こういう催事には出ておかないといけないのさ」
と、父はそう言ってどこか寂しそうな瞳を見せた。本来は彼の兄であるユリウスが家を継ぐ予定だった――しかし、彼は騎士として魔王討伐に参加し、命を落としてしまった。確かに多くの家が跡継ぎを魔王討伐に向かわせ跡継ぎを失ったのだが、よくよく考えれば政治的な立ち位置なども関係しているようにも思える。
近衛騎士からは誰も参加していなかった。教会に近しい騎士は聖騎士団長も参加していたが、最後の戦いには魔王城の中までは入って来ていなかった。
なんとも、面倒な世の中だと思いつつも父も色々と苦労をしているのだと改めて思うのだった。
そんな時に催事場である宮殿が沸き立つ。
「どうやら主賓が到着したようだね」
と、父は遠巻きに見つつも膝を折り臣下の礼をする。私も父に習って同じように礼をする。頭を下げている状態だと向こうは見えないが、知っている毒々しい気配の人物がいることに思わす息を飲んだ。
アレンが誰とどうこうというのは全くもって興味は無いが、あの邪悪な気配を持つ女を選んだということ、そして、アイツが魔王討伐で多くの者を死に追いやったことだけは確かだ。
『皆、頭を上げよ。今日という日は我が息子であるデューク第三王子のお披露目となる。我が子達は私と国母たるビシュリアンヌの力を継いだ勇者の称号に相応しい子達と同様に未来の勇者だ。特に繋がりの強い者達は存分に踊るが良い』
アイツの声が催事場全体にそう響いた。音を遠くまで届ける魔道具が使われているのだろうけど、思い出すと不快になる声だ。それはまぁいいとして、王族がいるであろう辺りでは膝を付いていた者達が立ち上がり、大きなざわめきを生み出していた。
「お父様は行かないで良いのですか?」
と、私が言うと彼は小さく苦笑をして私の頭を撫でた。
「私が行くと色々と面倒だからね、私達はここでひっそりとしておくのが一番いいんだよ」
「もしかして、お父様は中央の貴族達に嫌われているのですか?」
「あまり、直接的な言い方は貴族的では無いね。まぁ、ユーリが一人前になるまでは王都で暮らさねばならないワケだけど。私としては出来れば領地に引き籠っていたいという想いはあるね」
父はそう言いながらも、どこか楽しそうに微笑んだ。昔、ユリウスから聞いた話だが彼の家族は皆、自領で平和に暮らすのが理想だと言っていた。当時は王国中どこにいても魔物の脅威を考えねばならない程に魔王軍の脅威に晒されていた。
特に彼の領地は王国内でも特に魔王軍の勢力圏と隣接する場所であり、辺境伯領と並び、常に死と隣り合わせの危険な場所だった。平和になった現在でも他領に比べて魔物や魔獣が多い。また、魔王軍の被害が最も多い場所でもあったわけで、未だに他領に比べると貧しい。しかし、父達が努力した結果、近年は随分と領地経営も上手くいっているらしい――が、そこは私は門外漢なのでよく分からない。
「しかし、イリーナは気を付けなければならないよ」
「一体、何をですか?」
「学園に通い始めるだろう?」
と、父に言われて私は思わずピシリと固まった。出来るだけ考えないようにしていたけれど、貴族の子息令嬢が通う学園に行くということは現在この場所にいる同世代の貴族令息令嬢と共に生活をしなければならないということだ。
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