第11話 お披露目会当日
どうも、イリーナ・キーンベルク・シルフィンフォード(10歳)です。
お披露目会の少し前に10歳となり、来月から王都にある学園に通わされることを知って面倒臭さに落ち込みつつ、王城へ向かう馬車の中でございます。
なんというか、前世のアレコレを思い出す風景というのはなんとも言えない気持ちになる。
そして、目の前にアイツ――アレンが現れたとして、私は正気を保っていられるか正直なところ分からないのも困ったところだ。まぁ、見た目だって魔力も随分と違うからパッと見で私だと気付かれることはないけれど、私の方に問題があると言っていい。
ちなみに今日は母とマリーは屋敷の方でお留守番で我が家からの出席は私と父の二人となっている所為もあって私はゲンナリという気分である。
「大丈夫かイリーナ」
と、心配そうに私を見ていた父が優しくそう言った。さすがにユリウスの弟らしい雰囲気は彼が良い人間だというのがよく分かる。と、いうか父としても領主としても、彼は優秀だと思う。
「大丈夫です。マリーが心配なだけです」
これも間違ってはいない。今日は普段より少し体調がよくなさそうだったのだ。母や姉がいる状況下であったとしても、心配なものは心配である。そういうのもあって、少し自身の気持ちが不安定なのも、色々と面倒な事を考えてしまう原因となっている。
私は小さくゆっくりと息を吐いて出来るだけ冷静であろうと気持ちを切り替える。
「――で、あればいいけどね。王城では絶対に私の傍から離れないように。それから絶対に力は使わないように」
と、父は落ち着いた声で小さくそう言った。私は無言で頷きつつもアイシャのお墨付きを貰っている自身の腕前を過信するのだけはやめようと再度思うのであった。
そんなことを思っている間に城門前へ到着し馬車が止まる。父から城門前に設置している検問所にて名簿確認と手荷物などの検査が行われる事を事前に説明されていたので、特に驚く事もなく父の護衛騎士が素早く動き検問所に到着の一報を出す。
待たされること数分で馬車は動き出し私は思わず首を傾げた。
「手荷物検査などを行うのでは?」
私の言葉に父は苦笑しつつ「普通はね」と、呟いた。彼がそう言ったという事は普通では無い事があった。と、いうことだ。
王宮内でも色々と腐敗が広がっているのか、父がなんらかの手を使ったのか――たぶんだが、正解は両方なのかもしれない。
「まぁ、今日は多くの貴族が城に集まるからね。本来はより厳重に検査をするべきだろうけど、最近は魔道具である程度は危険な物の持ち込みはチェック出来るからね」
と、父はそう言った。確かにアイシャも言っていたが近年の魔道具研究が随分と進んでいるらしい。けれども逆に魔道具の普及が魔力隠蔽を誤魔化す手立てとなっている面もあるが、そもそも王城で問題を起こそうなんて人はまずいないとのことだ。
「魔道具とは便利な物ですね」
前世の記憶でも魔道具は幾つもあったけれど、その多くは戦闘用だった。今の生活でも随分と色々なところに魔道具が使われている事を考えれば確かに便利な魔道具も増えているだろう。
「昔は魔王軍との激しい戦いが続いていたからね。平和になってしばらくたったこの十年くらいで多くの魔道具が造られ、皆の暮らしも豊かになったんだよ。そのおかげで色々と問題もあるけどね」
と、父はそう言いながら再び苦笑する。まぁ、私には関係のない話だろうけど、父にも色々とあるのだろう。一見、魔王を倒したことで平和になったように見えるが、教会本山であるこの国での腐敗もそうだ。アイシャは教会の聖騎士として所属しているが、教会の担当地域で言えば隣国の教会所属にあたる。
そういう部分でも様々な歪があるわけだし、何よりもアイツが勇者という本来教会からしか認定出来ない称号を持っている。この話は家族やアイシャからも聞いたけれど、勇者を名乗れるのは彼と彼の子供だけだと言っていた。
確かに、勇者という称号は世界を救った英雄に与えられる称号であり、私達を殺したことを除いたとしても――魔王を倒したのは間違い無い。だが、しかし。彼の力だけで成し遂げたモノでは無い。
特に聖属性の付与や回復がなければ、あれだけ多くの魔族を狩る事など出来なかったハズだ。それに多くの騎士や戦士、冒険者達がいたからこそ成せた事なのにだ。
はぁ、なんとも嫌な気分になってしまったが、私の想いとは関係無く馬車は進み城門を通り今回の会場となる宮殿へ向かう。
ぐるりと城壁に囲まれた城内は王のいる城を含めて様々な建物があり、王族が行う夜会や多くの客がやってくる催事に使う宮殿はその一つだ。そして、道の途中で馬車は止まり父の護衛騎士が馬車の戸を叩いた。
「ご苦労。さぁ、イリーナ行くよ」
と、父はそう言って馬車を先に降りて私に向かって手を差し出す。私はその手を取ってゆっくりと馬車を降りる。意外と下を見ずに降りるというのは難しいのだけど、これもちゃんと訓練したのだ。ドレスのスカートって随分とボリュームがあるから、下を見たところで見えないのだ。
「練習した甲斐があったな」
「お母様やお姉様含め、豪華なドレスを着る貴族女性の皆を尊敬します」
私がそう言うと父は小さく笑って「確かにね」と、言った。けれどもよく考えれば動きにくそうな重鎧を着る騎士や無駄に派手なローブを着る魔法使いなんかも、結構凄いんじゃないだろうか? などと考えつつ、父について宮殿の入口になっている庭園へ向かうのであった。
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