第10話 お披露目会への準備

 はぁ、思いっきり憂鬱な気分なのは、王城で開かれるお披露目会なる催しに参加しなければならないからだ。


 自身も今は貴族の娘だから参加しなければいけないのは当たり前なのだが、前世の記憶があればこそ行きたくない気持ちが先に出てしまう。


 と、いっても逃げるわけにもいかず、魔力の隠蔽もモノにし、他にも色々と鍛錬してきた手前もある。


 それに情報収集という意味では社交の場というのは有益な場合もあるのも事実ではあるけれど、あそこは戦闘力とは別の戦う力が必要となる場所であり、どちらかと言えば私が最も苦手とする戦闘地域エリアだ。


 なんともテンションの上がらない状況に思わず溜息を吐きたくなるが、家族の手前それも中々に難しい。


「まったくイリーナは溜息吐きたい、と。言わんばかりの顔ばかりするわね」


 と、我が家の長女であるアンネローズは呆れたようにそう言って、私はその言葉に現実世界へ引き戻された。出来るだけ表情に出さないようにしているつもりだったのだが、どうやらそうではなかったらしい。


「アンネ、この子ったらどうしても王城に行くのに渋い表情を見せるのよね。王都に連れて来るのも結構大変だったのよね」


 母がそう言って頬に手を当てて困った子ね。と、呟く。確かに色々ととりあえずごねてみたのだけど、マリーから離れるのも嫌だったのが一番だった。マリーからおねだりされた瞬間に私は母にごめんなさいした。


「と、いうことは我が家のお姫様におねだりされた――とかかしら?」


 さすがというか、そこまで長い間共に生活をしているわけでは無いが、私が少し分かりやすい動きをしていたから――と、いうのもあるが、我が姉は非常に人を見る目があるのではないかと、私は思っている。


「なんとも、あの子が関わると分かりやすいどころじゃないくらいに表情が崩れるのはダメな気がするわね。お兄様達もそうだけど――まぁ、我が家のお姫様の可愛さは凄いのは事実だから仕方ないかもしれないけれどね」


 と、言いながら我が姉アンネローズも表情を緩めた。貴女も分かりやすい表情をしていますわよ。と、ツッコミを入れたくなるけれど、私はそんな事はしない。彼女の言う通り、我が家の姫様ことマリーの可愛さは神が与えたもうた奇跡とでもいうべき案件なのだから。


「あ、そういえば我が家の姫様はどうしたのです?」


 アンネローズが部屋にマリーが居ない事に気が付いたようで母に向かってそう言うと母は小さく微笑む。


「マリーは旅の疲れもあって、今日は寝込んでいるわ。だから、今のうちにお披露目会の準備をしようという話になっているのよ」

「……なるほど」


 と、アンネローズはそう言いながらテーブルに並べられている髪飾りを手にとっては私の頭に合わせ、小さく「違うわね。これでもないわ」と、呟いた。


 そうだ。私が思考の海に飛び込んでいたのは現在、お披露目会への準備ということで、私の衣装を整える為に母と姉の着せ替え人形として突っ立っているのだ。マリーも前世を思い出す前の私と同じように問題ある病気に掛かっていた所為で体力があまり無い。病気に関しては私がソッと治しておいたのだが、それでも私のように鍛えれるほどの力が無いのか、体力の無さは顕著で数日に一度寝込むくらいだった。


 ――たぶん、あの子も凄い魔力を持っているからなんだと思うけど、病気さえなければ年齢が上がれば解消されると私は思うのだけど。まぁ、何か起きれば私がなんとかしてみせる。


「イリーナも小さな頃は何日も寝込むくらいに病弱だったわね。今から考えると不思議なくらい元気だけど……」

「ええ、不思議なくらい元気になってくれて――アンネローズ。髪飾りはコチラの方がよくってよ」

「あ、いいですわねお母様。ドレスもこちらで大丈夫かしら?」

「イリーナに似合っているでしょう?」


 と、母は楽しそうに言った。現在着ているドレスは子供らしい雰囲気のフンワリとした感じだけれど、正直なところ、私には似合ってはいないと思う――のだけど、母と姉の反応を見る限りはそうでは無いらしい。


 ただ、使われている生地は結構強い魔物の糸が使われているようだ。近年はそういうモノもポピュラーなのかしらないけれど、防御力も高そうではある。さすがに魔力的な付与が施されたモノではないから、そこまでは考えられてはいないだろう。


「それにしても、王城で行われるお披露目会というのは結局、王族との繋ぎを行うという意味合いが強いんでしょうか?」


 私がそう言うと姉は微妙な表情をしつつ、母が小さく息を吐いて苦笑する。


「そうね。今回は第三王子であるデュカーク殿下のお披露目会になるわ。私達のような下級貴族が上級貴族との繋ぎとして行われる行事ではないけれど、決まりとして全貴族から出席するのが習わしとなっているわね。特に上級貴族の子達は王子殿下に覚えがよければ側近や婚約者、他にも上級貴族同士の婚約者探しのイベントともいえるのは確かよね」


 と、母はそう言った。私は凄く面倒臭そうな表情をするのをグッと耐え、出ても得れるモノは無さそうなイベントへ駆り出されるのか……と、内心で深い溜息を吐いておくことにするのだった。

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