第9話 硬派な兄

 とうとう王都へやって来た。本来はシルフィンフォード領から3週間ほど掛けて王都へ到着する予定だったのだが、途中でマリーが慣れない長旅に体調を崩したりしていた為に予定より2週間ほど遅れての到着になった。


 因みに王都近くで、到着が遅れている事を心配した次兄エリックが馬に乗ってやって来るなどというハプニングもあったけれど、無事に王都の屋敷へ到着した。


 あれから20年くらい経っているけれど、私の記憶にある王都と大きくは変わっていないように思えた――と、言っても王都の記憶は残念ながら良い記憶はあまりないところが、また問題でもある。


 当時は魔王討伐の為に騎士団や冒険者などとの繋がりや教会上層部、貴族などと会わなければいけない為に幾度か来た程度だ。特に貴族や教会上層部との会合に付き合わされるのは本当に不快な事が多かった。


 正直言って貴族や腐敗した教会上層部には随分と嫌われていたかもしれないけど、あいつ等は聖女や聖女見習いを娼婦と勘違いしていたから、申し訳ないけど物理で語らせて貰った。


 それでも何人かの聖女があいつ等に喰い物にされていた理由だけど、そういう輩はいつの時代でもいるのだろうと私は思っている。


 ま、キチンとした貴族や教会関係者も多くいるので全員が同じ様なクソとは思ってはいないけど――いないけど、あまりにも前世の記憶がそのあたりを邪魔している気がしてならない。


 そんなことを考えていると、屋敷の前で馬車が止められ、母が馬車を降りると声を掛けられて現実へ引き戻された。


「母上、ご無沙汰しております」


 と、馬車の外で私達を出迎えに長兄ユーリが爽やかな笑顔でやって来ていた。因みに隣に控えているのが長兄の溺愛している嫁エンジェリン嬢も優し気な笑みを浮かべていた。因みに我が兄達は見た目に反して驚くほどの超硬派なタイプなんだけど、父親というよりもユリウスを彷彿とさせるほど、真面目でお堅い性格である。


 特に兄のエンジェリン嬢との様々なエピソード関しては幾度か母から面白話として聞いているが、どれも硬派な兄らしい話になっている。特に馴初めとなった話は王都の学園でも凄まじい速度で噂が広がったという話らしい。因みにこれは休暇で帰ってきていた姉から聞いたエピソードである。


 なんでも、エンジェリン嬢はすでに他に婚約者がいたらしいが、ソイツが糞野郎でさらにエンジェリン嬢は実家でも非常に扱いが悪かったそうだ。はじめは正義感から関わったようだが、そのせいでエンジェリン嬢の婚約者にすごい敵視された。


 なかなかに曲者なエンジェリン嬢の婚約者に対して、どこまでも堅物らしい長兄ユーリの愚直さにエンジェリン嬢がコロリといってしまったワケだ。まぁ、長兄ユーリの強さはは私の目から見ても強い部類に入るが、あの硬派な兄を虜にしたエンジェリン嬢もなかなかやるなぁ。と、いうのが私の感想だ。


 彼女の立場からすれば、婚約破棄まで持って行くには様々な条件が必要だった。特に糞野郎の家と彼女の実家との関係がより話をややこしくしていた。まさに貴族っぽい話である。


 糞野郎の家は新興貴族で家格は男爵。詐欺紛いの商売で成功した黒い噂のある大金持ちの家。方や当代が派手で博打好きという駄目な伯爵家で後妻の子を可愛がりエンジェリン嬢は伯爵位のお嬢様とは思えない生活を送っていた……完全に虐待と言っても良いレベルだったそうな。


 因みに我が姉曰く、エンジェリン嬢は頭脳明晰、器量良しの完璧超人らしい。すごい才能をいかに目立たないように極振りしていたせいで学園内でも話題にさえなっていないなかったのが、糞な婚約者のお陰で周知されるに至り、我が兄の目にも止まったわけだから結果として良かったと言うべきだろう。


 糞な婚約者だった男の家はヘイゼルナーだ。私の前世の記憶にもあるヘイゼルナーは貴族では無かった。違法な商品を扱う闇商会と呼ばれる者だ。貴族相手にヤバい商材を扱っている噂を聞いたことがあったが、兄とエンジェリン嬢の話で私の中で色々と繋がっていく話は本当にヤバいと思った。ハッキリ言って国が随分と、大っぴらに腐っている証拠でもあるけど、ヤバすぎて誰にも言えないし言っても信じて貰えるとは思えなかった。


 出来るだけ近づかない方が良いだろうし、家族が危険な目に合うのは避けたいところだ。兄とエンジェリン嬢の件では相手方の元婚約者となった糞野郎が色々と派手に阿呆な行動を取ってくれた事に感謝するしか無いだろう。


 父も事が丸く収まった時にヘイゼルナーとは関わらない方が良いという旨の話をしていたらしいし、きっと大丈夫だろう。


 それにしても、王都中枢の腐敗とアレが王であり勇者となっている件は絶対に関係があるのだろうと思うと嫌な気持ちにしかならない。


 はぁ、お披露目会回避って出来ないのだろうか?

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