第7話 魔力隠蔽の教え

 正直、魔力隠蔽というのは自身の魔力を外に出さず、他魔力からの干渉を受け流す技術なのだけど、前世の知識で言えば私の魔力隠蔽もその時に覚えたモノで現在も使っている。


 けれども、それ以上の隠蔽を行うというのは前世では必要なかったので更なる隠蔽というのはあまり想像出来ない。


「イリーナ様が現在行っている魔力隠蔽は基礎部分と思って頂ければ良いでしょう。重要なのは自身の魔力を表に出さないようにより内に閉じ込めるようなイメージです。ただし、瞬時に展開できるように放出時にも技術が必要になります」


 と、アイシャは言う。なんだか凄く非効率的な方法のような気がしなくもないけれども、魔力を隠蔽するというのはメリットも多いのは事実だ。本来、魔力を隠すという行為は魔法を使う者からすれば意味の無い行為と言っても過言ではない。けれども、圧倒的な力である魔法を行使出来る者というのはそれが出来ない者からすれば、恐怖の対象であった。故に魔力を感知する技術が生み出されたお陰で魔力を隠蔽する技術も生み出された。


 魔力隠蔽の基礎は自身の身体から魔力が漏れ出ないように内に閉じ込めておくという技術だ。閉じ込めるだけであれば解放は全く手間では無くただ自身の力を解放するだけだからだ。


 しかし、アイシャの言う魔力隠蔽とは自身の魔力をさらに内に圧縮して閉じ込めることで魔力を感じさせない方法なのは確かだ。人というのは誰しもがある程度の魔力を持っていて、人体の奥には魔力が流れているのは当然であるから、魔力を探知するにしても自身の奥に魔力を隠してしまえば見つけるのは難しい――と、いう発想なのだろう。


「先ほども少しお見せしましたが、今度は少しだけ応用を――」


 と、アイシャが掌をソッと前に出すとそこからフワリと魔力が溢れ出る。そしてすぐにそれを握り潰すように動かすと魔力は霧散する。


 私は思わず驚いたけれど、どういった方法で魔力を隠蔽してそれを使うのかをある程度は理解することが出来た。


「なるほど……身体強化の応用と考えればよいのですね」


 私がそう言うとアイシャは驚くような表情を見せつつも小さく微笑んで私の言葉を肯定する。


「さすがというところでしょうか。ですが、実際に使うとなると中々に難しいですよ。特に圧縮する時に圧縮しすぎないように注意が必要です。魔力を内に閉じ込める際に圧縮しすぎると魔力の硬化現象が起き、身体に問題を抱える羽目になってしまします」


 魔力の硬化現象というのは実際体内で無くても起こりえる事ではある。魔物の体内には多く見つかる事があるけれど、人間の体内に魔力の硬化現象による魔石が出来ると身体に問題を抱える事があるという話は聞いた事がある。


 しかし、人が魔力を内に込める事は普通はありえなく、その例は非常に少ない――のだが、実は一つだけその例に入る病気がある。それは聖女が使う回復魔法さえも効かない非常に致死率の高い魔核まかく症という病気だ。


 これは魔力の高いが魔力の扱いが苦手なモノが何かのきっかけで起こる病気で体内に幾つもの魔石を生み出し、それによって身体に問題を抱えるようになるというものだ。


 アイシャが注意する事を考えれば魔力を体内に圧縮して収めるのは魔力の硬化現象が起きない程度に閉じ込める――と、いうことだけど、どれくらいの魔力圧縮量で硬化するのか分かりにくい。


「体内の魔力はどれくらいで硬化するのかしら?」

「正確なところは何とも言えませんが、体内での魔力というのは固まりにくい傾向があります。幾つかの魔法で行う魔力硬化に比べると数十倍から数百倍の魔力をそのまま受け止める事が出来ると考えられています。これは身体強化が特に得意な者が硬化現象を起こさないことからも確かなのですが……」


 と、アイシャはそこまで言って少し言い淀む。私が首を傾げると彼女は少しだけ申し訳なさそうな表情をした後に小さく咳払いをして「失礼しました」と、言って静かに目を閉じる。


「実はですね。イリーナ様のように子供の身体に膨大な魔力を持つ場合は特に気をつけねばなりません。聖騎士見習いの一部に魔力圧縮によって魔核症になった子供が幾人もおります」


 なるほど、中々に衝撃的な話だ。魔力の扱いも未熟な子供だとそういう事も起こりうるという事例なのだろう。しかし、私の場合は魔力を扱う術に関しても前世の記憶のおかげで十分に扱える。まぁ、まだ発展途上なせいもあって魔力総量はまだ伸びしろがあると思うけど。


 でも、魔石とは魔力が圧縮され結晶化したモノだと考えれば――逆に結晶化された魔石を魔力として使う方法があるのでは無いのだろうか?


 アイシャの言いようだと現在でも魔核症の治療方法は見つかっていないのだろう。それを考えると難しいのかもしれないが――と、私はふと、昔の事を思い出す。


 魔族との戦いの中で魔王の部下で不可思議な技を使うヤツがいた。


 ソイツは血を自在に操る術を持っていたのだけど、血とは人間の身体で最も魔力を含む。魔力を生み出すとされる器官は心臓にあるともいわれているほどに血と魔力は密接な繋がりがあると考えられる。


 そして魔力を扱う上で最も大事なのはイメージだ。正直、アイシャが魔力硬化の話をしてくれたワケだが普通は固まるイメージが先にあると、扱うのが難しくなるのだが……彼女には私がそれを聞いたとしても問題無く扱えると思ったのだろうか?


 ま、とりあえずはそんな事は些末な話だ。血を自在に操る魔族は血を固め剣や槍、時には糸のように細くし、さらにはそれを遠隔で操っていた。どれも魔力を使った術であり、魔法だ。そして、本来一度固まったモノを再び元の液体に戻し、別の形状へ変えたりもしていた。


 これは一つのヒントになり得るかもしれない。


 私はそんな事を考えながら彼女から魔力を圧縮する術を学ぶのであった。

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