第5話 妹の誕生
気が付けば7歳になった。そして、私に妹が生まれた。あの時、どういう感情を浮かべれば良いのかてんで分からなかったのが嘘のようで、正直、妹が可愛くて仕方ない。
「イリーナ。今日もこちらで過ごす気なのかしら?」
と、母が少し困ったような表情を浮かべつつも優しく私の頭を撫でた。なんともこそばゆいが、悪くはない。それに前世でも微かな記憶にある母親から頭を撫でられた思い出を薄っすらと思い出す事が出来た。
それにしてもだ。私の妹であるマリーの可愛さといえば、もう天使としか言えない。私に妹という存在を与えてくれた両親とラミリア様に感謝だ。
「はじめてお姉さんになったからと言って、貴女はケビンから特別な教育を受ける立場を自ら勝ち取ったのですよ。妹にかまけている時間はあって?」
と、母に言われて思い出す。特別な教育と言っても聖女に関する知識であれば私以上に詳しい人間はいないし、聖女の力にしても魔王討伐の最前線に立つくらいの腕前がある――と、言っても確かにキチンと鍛錬をしないと、この身体はまだまだ弱いし魔力量も前世に比べてまだまだ成長段階だ。
でも、我が妹マリーを見ていると、どうしてこんなにも落ち着くのだろうか不思議で仕方ない。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「イリーナ様は妹君に張り付いていた為に
アイシャはそう言って、眉間にシワを寄せた。確かにアイシャがいう事は正論ザ正論だ。正直なところ、好きでアイシャの授業を受けたいわけではな無いのだけど、自分が望んだ結果――彼女の授業を受けることになったのだから、遅れたりサボったりするのは違うだろう。くっ、仕方ない以後は気をつけようじゃない。
「まぁ、良いでしょう。正直、教会の歴史などは私よりも詳しいようですし……」
と、アイシャは呆れたように息を吐く。そりゃぁ、私は前世で聖女の位置付では上位にいたわけだから歴史や序列なんかは詳しくて当然だ。しかし、現在の体制や近年の教義については未だによく分かっていない。
「どうして、魔王が討伐された以後は教義が色々と変わったかのかしら?」
以前から疑問に思ってはいたけれど訊いていなかった事だ。アイツが勇者という称号を名乗り、現在の国王として即位した辺りから何かがおかしい。いや、もしかしたら以前から私の知らない事があったのだろう。
そうでなければ魔王討伐後の動きは普通に考えてあり得ないだろう。
「一番大きいのは勇者アレンが王として即位された頃でしょう。私も詳しい事は分かりませんが教会上層部でも大きく人が動きました――特に上位の方々が魔王討伐で亡くなった事も一因となったのかもしれませんね」
と、アイシャはどこか寂しげにそう言った。敢えて聖女という言葉を使わないところ、やはり何かがあったのだと考えるのが一番だろう。
「どうして聖女が聖騎士になっているの?」
実はこの質問は既に数回目なのだが、彼女は絶対に答えをはぐらかす。子供の何気ない質問だと思われているからこそだけど、あまり踏み込みすぎるのはマズイ可能性もある。
「以前も言いましたが、魔王討伐後に制定されるようになった称号です。現在では教会が組織する騎士の中でも上位の者だけが名乗ることを許されている特別なものです」
と、アイシャは複雑な感情を見せつつもそう言った。なんとも不思議な話だ――教会にとって聖女は特別な存在だったハズだ。それが20年そこらで聖女という言葉を使うのさえ禁忌のような扱いはおかしいというより異常事態だと思う。
考えうる事と言えば何だろうか?
「――ここだけの話として、貴女には聞いて頂きたい事ですが、聖女の事を話す事は世間では憚れます。我々は信じていませんが、魔王討伐の際に聖女達が魔族に寝返ったせいで多くの者が死に至ったと現在の国王と既に粛清されていますが、当時の騎士団長が証言した事で一部の聖女達も処刑されました。教会では以後、聖女見習いの多くを別の所属へ移し、私のような聖女として認められる予定だった者は聖騎士となりました。特に現在の教会本部は勇者に対して弱く、国内でも聖女こそが悪だと喧伝された為に内外で聖女を称えるような事はその身を滅ぼしかねませんので、絶対にしないように」
アイシャはそう言ってから「私も貴女にこの話は二度としませんので……」と、苦笑した。
なんとも――いや、なんて表現すればいいのだろうか、正直、怒りを通り越して呆れている。アイツめ、どこまで私やマリアンヌを辱めれば気が済むのだろうか。
「貴女達――教会の司祭達も信じてはいないのね?」
と、私は彼女に言うと彼女は周囲を見てから小さく息を吐く。
「残念ながら、多くはありません――いえ、皆、恐れているのですよ。誰もが自身の身が一番ですからね。そういう私も同じですから、二度とこの話題はしないで頂きたい」
「――分かったわ。私は聖騎士なんてなりたくないのだけど、自身の力が明るみになると問題が生じるってことよね?」
「そうです。だからこそ、シルフィンフォード卿が私を教師へと言って来たのでしょう」
そう言ってアイシャは小さく微笑んだ。
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