第2話 アイツが国王?

 どうも、イリーナ・キーンベルク・シルフィンフォード(6歳)です。


 どうやら私は謎の高熱で死の淵を彷徨って前世の記憶を蘇らせて起きたようだ。正直、記憶が蘇ったから高熱を発したのか、別の要因があるのかは定かでは無いけれど、あの後も数日間寝込んでいて、やっとこさベッドでの生活から解放された。


 前世の記憶からは驚くほどに現在の身体が華奢な事にドン引き何だけど、どうやら赤ん坊の頃から随分と病弱だったようで、ともかかくスタミナの無さに驚いた。


 こいつは鍛えねばと思っているけれど、周囲がそれを認めてくれそうでは無い空気感がヤバい。


 とりあえず、病弱であったのは少し特殊な病気に掛かっていた所為なのだけど、私は前世の時にも様々な病気を魔法にて直してきた経験を元に、この身体を侵していた病魔をサッサッと魔法で治しておいた。なので、後は前世と同じくしっかりと鍛えれば即座に健康体になれるのだが――随分と家族に甘やかされて過ごしていた所為もあってか、いきなり身体を動かしたいと言い出した私を心配して倒れてはいけないと即座にやめさせられてしまうのが、現在最も大きな悩みだ。


 これでは鍛錬出来ない。と、私は部屋でメイドの淹れたお茶を飲みながらゆっくりと息を吐いた。


「お嬢様のお身体を皆心配しているのです。そのように拗ねていてはいけませんよ」


 と、メルビーが申し訳なさそうに言った。けれども、病弱の元であった病気は既にこの肉体からは消し去ったのだけど、それを皆が知っているわけでも無く、まぁ、言っても仕方ない事でもある。とりあえず私はムスッとした表情のままお茶を口にして、心落ち着く香りにゆっくりと再び息を吐いた。


「はぁ~、落ち着くわ」


 メルビー含め、私の世話を任されているメイド達が淹れるお茶はとても美味しく落ち着く。


 どこか懐かしい感じがする味わいと香りが良い。正直言って前世からこの手のものは詳しくないので、どこ産の茶葉だとか使う茶器がどうこうというのはどうでも良い。


 あの頃は私や妹のように共に暮らしたマリアンヌには魔物との戦いの日々だった。それが孤児であった私達が生きる意味であり、教会が私達の面倒を他の孤児達を助けるための行いだったのだ。正直、教会にも色々と思うところはあるけれど、私やマリアンヌのように神の加護を受けた者は後ろ盾がなければ貴族に狙われたり、他国の奴隷商なんかにもその身を狙われる可能性もあった。


 そういった意味では教会が腐敗していたとしても大きな後ろ盾であった。


 とは言っても聖ラミリア教会の中でも私やマリアンヌがいたところはマシ中のマシ、ちょっと魔王絶対許さないと声高に言っていた強硬派の超武闘派司祭を中心とした組織だっただけだ。


 ま、そこら辺について今はいいや。私はこの数日間で知った色々と衝撃的な事実の方が問題である。


 思い出しただけでも腹が立つ――と、いけない、いけない。


 考え事をすると百面相してしまう傾向があるのだ。意識して表情が見えないように工夫しなければ、周囲にいる皆が心配してしまうのだ。と、私は腹が立つ事を思い出しつつも落ち着くために再びお茶を口に入れて、ゆっくりと息を吐いた。


 にしても――だ。


 アイツが今の国王ってのはどういう事よ? 王配ならまだ分からなくはない。っていうか、あの姫様と結婚したのもどうなのよ。周囲に邪魔になる奴は皆殺しておいてアイツは平気な顔をして国王とか言ってやがるワケ。


 しかもよ。あの当時は協力者だったハズのアーバインも粛清されていた。


 アーバインに関しては国内で禁止されている奴隷売買や少年への性的暴行などの罪で捕らえられ、即座に処刑されたらしい。それを考えると完全に彼はアイツに嵌められたのでしょうね。


 全く、なんてヤツなのかしら。


 そして、もう一つ驚いた事実があった。それは『勇者』という称号の設置だった。現在、アイツは自身を『勇者』という称号を得たことで国内どころか周辺国にも影響を持っているらしい。


 まぁ、それくらいならいいけど、アイツは自身の後継者である息子に称号を継がせる法を成立させたらしく、アイツの一族だけが名乗れる称号となったらしい。っていうか、何が『勇者』だ。


 全くもって腹が立つことだ。『勇者』と語られる者というのは古くから英雄の中でも勇気を持つ者で、英雄の中の英雄と語られる者に与えられる称号なんだけど、これは教会だけが出す事が出来る称号だったと記憶しているのだけど、どうやら教会の腐敗も凄い事になっていそうだ。


 アイツに二度と関わらないように上手く立ち回らないといけないわ。絶対に碌な事にならないと思うのであった。


 とりあえず、何があっても不意打ちを受けて殺されたり、毒殺されたり……などなど含めてもっと自身を高めて自己防衛しないといけないわ。


 そして、ふと転生したのが自分だけなのか考えてしまう。マリアンヌも転生して今の世に生まれて来ていればいいんだけど――と、私はお茶を飲みながら女神ラミリアに祈るのであった。

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