第51話 交錯

「……ふっふっふ、僕にかかればこんなのチョロいもんだ!」

 

 ノートと参考書が開かれた机。

 僕はそのまま伸びをする。1時間弱机に向かっていたせいか、肩と背中が小さく音を鳴らす。自室の窓から見える外はすっかりと暗くなっている。


「……うー、さぶさぶ……」


 我が家の中と言えどまだ一月。まだまだ険しい寒さが続いている。

 身震いするように自身の腕をさすって乾布摩擦を試していると、下の階から声がした。


「凌くん~、あったかい紅茶淹れたよ~良かったら飲みにおいで~」


 おっとりとした優しい声色。  

 兄さんのお嫁さん――楓さんの声だった。


「はーい、降りまーす」


 即決である。こんな寒い時期に温かい紅茶を、しかも楓さんが淹れてくれるなんて。

 机に広げた書類はそのままに、脇に置いてあったスマホを掴んで僕は部屋を出ようとした。


「……?」


 掴んだスマホが軽快な通知音と共にぶるぶると震えた。

 

 部屋の扉の前で僕は視線を落とす。


『緊急開催! 肝試し参加者募集!』


 いつもの同級生5人組のグループチャットにそんな文言が投下されていた。

 まーたアキラくんが無鉄砲な企画を立てたんだろう。

 大体こういう時は御子柴さんが「馬鹿なこと言うなー!」って怒るパターンだ。


「肝試しかぁ……懲りないなぁアキラくんも」


 どうやら既読を付けたのは僕が一番最初らしかった。

 こういう時に既読を付けてしまうと何か反応しないとマズい気がしてしまう。

 そっと画面を閉じようとしたが、


『リョウちん! 流石に一人は怖いから付いてきてくれ!w 場所は今のとこ旧深花美術館の予定!』


 気付けば、アキラくんが僕宛のメッセージを飛ばしていた。

 

 ……


 …………


 …………………


 丁度課題の片が付いたところだ。

 話を聞くだけ聞いてみてもいいだろう。


 どちらにせよ、楓さんの淹れてくれた紅茶をいただいてからだけど。

 僕は軽快な足取りで階段を下っていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る