第33話 狂う心の中で
――妬め
――恨め
――拒絶しろ
――否定しろ
心の底から、誰のモノともいえない言葉が延々と湧き続ける。
私はもう、その全てに身を任せるだけだった。
「――――――---ァァアァアア!!!!!!!!」
嫉妬の炎。
気付けば、私の短かったはずの髪の毛は八方に伸び、その先端で蛇の頭を象っている。比喩でも何でもない、確かな蛇頭。私の心に渦巻く無数の感情の持ち主。
私であって、私ではない分身。
――奪え、奪え、奪え
――妬め、妬め、妬め
頭が割れるように痛い。
痛みをごまかすように、感情に任せて怒りを飛ばす。
――8つの蛇頭を忌々しい彼女へと向かわせる。
その才能を、私を凌駕するそのカラダを、「奪え」と命じて。
確か名前を、西川原と言ったか。
もはやそんなことはどうでも良いことだが。
「―― -――――――ァァァァァ!!!!!!!!!!!!!!」
声にもならぬ歓喜をあげながら、私は私ではない分身を突き動かす。
8つの蛇を彼女の立つ場所へ一点集中で叩きつける。
いや、叩きつけようと、した。
「――
瞬間。
閃光と共に、何者かが私の分身を切断した。
切断された蛇の頭は塵となって消える。
そしてまた、私ではない分身が再生する。
――誰。
――私の邪魔をする人間は、誰。
真っ赤な視界の中で、標的の姿を追う。
「――っひゃ~。ミナミ間一髪すぎっす! 何してたんすか!」
「ごめんごめん、ちょっと用事があって……。でも、にっしーなら大丈夫だと思ってたよ」
「全然大丈夫じゃないっすよこれ! もっと低級な崩魂って言ってたじゃないっすか! 滅茶苦茶強そうっすよこの人!」
何かを喚く二人。
私の分身を切り裂いたのはどうやら金髪の女子生徒らしい。
消えゆく自我が、彼女の正体を告げる。
――あぁ、こいつも、邪魔者な訳ね
――私の大切な人に近づく、女狐
その美しさに、秀麗さに、嫉妬の炎を滾らせる。
奪え、奪え、奪え、奪え!!!!!!!!!
無数の蛇が私の髪を依り代に生まれていく。
負の感情が各々自我を以て、その姿を顕現させていく。
――こいつらの全てを奪ってしまえ
私を基に生まれた私ではない分身を、ひたすらに彼女らへと向ける。
――全てを奪え
そう念ずれば、自ずと分身は彼女らへと向かう。
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「--――――――――ァァァァ!!!!!!!!!!!!」
幾度斬られても、私は分身を再構築するだけ。
私に募りに募った負の感情が、ただひたすらに嫉妬の炎を宿らせる。
憤怒の蛇を呼び覚ます。
そんな私の不屈の精神が、彼女らの防壁を打ち崩した。
「――ッ、まずっ!!!!――」
捉えた。
忌まわしい西川原ではないが、邪魔をする金髪の右腕を蛇が襲う。
噛みついて、
「——は、はなっ―――――――ッ!?」
金髪の彼女の顔が青ざめる。
その顔だ。
その絶望だ。
あぁ、それだ、それだ、それが欲しかった。
奪われる顔だ。
奪う快感だ。
嫉妬の炎がより大きく燃え上がる。
「―――—あぁぁああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
悲鳴と共に、蛇が彼女の力を吸い上げる。
対象の才を、吸い尽くす。
もはや髪の毛ではなく、蛇の長身となってしまったその導線を伝って、私にその力が、才能が流れ込んでくる。
——あぁ!!!!!
―――――あぁあああああああ!!!!
金髪の彼女があげる悲鳴とは違う、得も言われぬ快感が全身を駆け巡る。
優越感が、私の心を満たす。
そしてなおも欲する。
全てを、奪えと。
「ミナミを、はなせえええええええええええええええええ!!!!!!!!!!」
眼前で何かが聞こえた。
奪った力で、念ずる。
突き飛ばせと。
「――ぐぁっ!!!!!!!!!!!」
西川原の悲鳴。
しかし、モノ足りない。
私はこいつからも奪わねばならない。
全てを奪うことで、私は完成する。
嫉妬の炎を昇華するために、
ただ妬み、
ただ奪い、
ただ蹂躙する。
そのまま、西川原に分身を差し向けようとしたが、
「――――っっうぅっ……」
力を吸い取り続けていた金髪から、力ない声が聞こえる。
「――魂の……浄……」
反撃の兆候。
――残念だね
――いくらあなたが美しくても
――いくらあんたが優秀でも
――どの道すべては私のモノ。全部ぜーんぶ、私が奪う
「――ッ、や、やめろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!」
地に倒れる西川原の、悲痛な叫びが聞こえる。
それを聞いて、抑えきれない邪悪な喜びが加速する。
――もっと、もっと。
残りの分身の全てを、金髪の元へと向かわせようとする。
一滴残らず吸い尽くす。
力も才能も幸も感情も、
希望でさえも、
あまねく全てを奪い尽くす。
――その、はずだった。
「―――ーーーァァァァァ!!!!!!!」
私の複数の分身が彼女の体を覆い尽くそうとした瞬間、
――ソイツはやってきた。
金髪の彼女を覆い尽くした私の分身全てを、その拳で粉砕して、
まっすぐな視線をこちらに向けて、言った。
「――よお」
「――お邪魔虫の登場だ。俺も混ぜてもらおうか、なぁ――御子柴ミカ」
――どいつもこいつも、私の邪魔をする。
――苛立ちが分身を増殖させる。
――彼らの全てを、奪い尽くすために
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