第20話 ひらめき
「――疲れた・・・眠てえ・・・」
自室のベッドに倒れ込む。
柔らかい布団の感触に、全身が沈み込む。
そのまま、目を閉じる。
不格好なまま、布団も被らずにでも寝れてしまいそうだ・・・
『――おい相棒、寝る前にこれからどうするか考えねえと』
「・・・・・・」
知らん。もう寝させてくれ。良い子の就寝時間はもうとっくに過ぎているんだ。
『はあ? どうせ明日も家でヒキコモるんだろ? だったら別に何時に寝たって変わりゃしねえよ。ほら起きやがれ』
くそ、こういう時心の声だけで十分会話できてしまうのが腹立つ。
無視を決め込むことが出来ない。
『俺様の忠告を無視して厄介ごとに首ツッコんだんだ。無理矢理付き合わされてる俺様の身にもなってくれ』
「・・・よく言うわ。お前も俺を利害関係の相手としてしか見てねえだろうに」
『ケケッ、まあ、俺様としては喰える魂の総量が増えるなら、正直なんでも良いんだけどな』
「とんだ食いしん坊だな、まったく・・・」
仕方なく、俺は目を開くことにした。
眠りに入ろうとしていた思考を叩き起こす。
「・・・しかし、どうするっつってもなあ・・・」
どうするべきか答えが出ないから寝ようとしていたわけだし。
『とりあえずあの煩悩の王をどうやって "抑える" か、だな』
「・・・」
煩悩の王――それが東條ら魂の解放者が言う、葉佩リョウの正体。
この街に蔓延る煩悩、崩魂の生みの親、総大将と言っても良い。
それがあの気弱そうで、無害そうな男子高校生だと。
・・・全く以て、信じがたい話だ。
しかし、信じるに足る根拠はあった。
東條が言うに「煩悩の王」は存在するだけで煩悩を活性化させ、崩魂の誕生を誘発し、そして崩魂を使役することが出来るのだという。
――意識的にも無意識的にも、だ。
日々夜中の校舎に現れる崩魂も、煩悩の王が通う学校で、煩悩を活性化させた結果なのだということは間違いないだろう。
つまるところ、全ての煩悩、崩魂の元凶が、葉佩リョウということになる。
『やっぱ俺様は殺すしかねえと思うんだがな』
「・・・いきなり物騒なこと言うなアホ」
なんで必死に助けた人間を殺さないといけないんだ。
つうか、その選択はホントのホントに最終手段だ。
安易に選択されるべきものではない。
『そうは言うが、だからといって煩悩の王の活動を封じる手立てもない。今でこそ俺様たちは利を得ているが、いつ割を喰うか分かったもんじゃないぜ』
俺たちは崩魂を狩り、このクソ煩悩を魅魂へ転化させることを目的としている。
そういう意味では、崩魂を無尽蔵に生み出してくれる煩悩の王の存在はメリットとも取れるだろう。
しかし、それは一時的なものだ。
俺の目的は、「魅魂による崩魂(ひいては煩悩)の完全消滅」。
つまり煩悩の王の消滅が最終目的と言っても良い。
煩悩がそもそも無ければ、餌となる崩魂も、煩悩を消し去るための魅魂も必要ないからな。
――このまま煩悩の王を野放しにして、何かの弾みで宿主と煩悩の王が覚醒してしまったら、取り返しのつかないことになる――
東條はそんなことを危惧していた。
煩悩の王は存在だけで、無意識的に崩魂を生み出し、使役できる。
それは人の力を借りずとも、その器を借りるだけで出来る最小限の活動。そんな煩悩の王が、体の自由まで手に入れた暁には、全ての人間が煩悩に魂を蝕まれ、崩魂そのものになってしまう、と言うのだ。
何を馬鹿なことを、とは思いつつ、俺にはあまり他人事のようには思えなかった。
行き過ぎた煩悩は、人を殺す。
俺はそれを身を以て知っている。
最悪の事態を防ぐために、煩悩の王、もとい葉佩リョウの命或いは魂そのものを奪う。
それが彼ら――魂の解放者たちの目的だったようだ。
結果は邪魔者の俺に防がれた形になったわけだが。
巡る思考から生み出された疑念が、心の海に投げかけられる。
――俺は、葉佩リョウを救うべきではなかったのか? 見殺しにするべきだったのか?
疑念に対して、反射的に声が出る。
「――いいや、違うな。断じて、違う」
俺の行動は間違ってなんかない。
俺の選択は間違ってなんかない。
俺は選んだ。責任を取ることを選んだ。前に進むことを選んだ。
なら、少なくとも今この瞬間は何も間違えてなんかない。
正しさは、無数の選択の先にしか成り立たない。
俺は、俺の正しさを、これからの選択を以て証明していく必要がある。
だから、俺はこんな所で立ち止まらないし、後悔もしない。
前に進み、選ぶんだ。
『ケケッ、前向きなのは結構だが、結局どうするんだ? あの魂の解放者とかいう奴らはまた葉佩リョウを殺しに行くんじゃねえのか? 毎回気配を追って助けに行くのは無理だぜ』
魂の解放者――彼らもまた、俺と同じ「魂」を「力」として扱う存在らしい。
俺とは違い、「使える魂」は自分オリジナルの1個だけのようだが。
まあここら辺の話は今度美咲さんに詳しく聞くとしよう。
「それは、そうだが・・・」
壁に駆けた時計を見遣る。
時刻は夜中の1時を回っていた。
もう寝ないと朝起きれなくなってしまうな。
しかし、まだ何も解決していない、困った。
まあ、煩悩の言う通り、俺が早く寝たところで明日学校に行くわけでもないのだからどうだっていいのだが・・・
あ。
「・・・」
『ん、どうかしたか、ハトが豆電球喰らったみたいな顔して』
なんだそのすげえバカみたいな絵面。感電しそうだな。
「・・・」
そうか、その手があったか。
『なんだ、教えてくれよ、相棒』
「――明日は早起きだ、とっとと寝るぞ」
楽しみにしとけよ、アホ煩悩。
とびきりの作戦、思いついたからよ。
――あ、だめだやっぱ緊張で寝れないかも・・・・・・
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