第17話 対話


「――んで、お前らは一体何者な訳?」


 俺は積み上がったガラクタの上で胡坐を掻いて、頬杖をついたまま彼らを見下ろす。


「・・・くそっ、なんだよこの縄、全然ほどけねえッ・・・」


 今にも暴れ出しそうな金髪ツーブロック野郎に、


「もうヤダぁ・・・帰りたい・・・椎名ちゃん限界・・・」


 虚ろな目をするツインテールギャルに、


「・・・外道に話す言葉など、持ち合わせていない。さっさと殺せ」


 ようやく意識を取り戻した丸眼鏡の男。

 

 どいつもこいつも話を聞こうとすらしてくれない、なんだこいつら、酷くないか?  俺とコミュニケーションくらいとってくれても良くないか?


 はぁ。


 と大きなため息をついてから、俺は後ろを振り返る。

 唯一まともな会話できそうな彼に話を振る。


「こいつら、知り合い?」


 葉佩は首を横に振った。


「いや、知り合い、ではないかな・・・今日うちのクラスに転校してきた人ではあるんだけど・・・」


「転校・・・? 三人ともか?」


「うん・・・」


 ふーん、なんかやけに怪しいな。

 いや、怪しいっつうか現にこうして襲ってきてるんだから、元々そういう腹積もりだったのだろうが。


「つか、あんま無理すんなよ。傷まだ痛むだろ」


 葉佩の体は、俺が思っていたより傷付いていたわけではなかった。刺し傷も切り傷もなく、ただ、――


「あ、うん、ありがとう・・・でも、もうだいぶ楽になったよ」


 葉佩の言葉に、下の方で転がるツインテールギャルが反応する。

 その目は「信じられない」と言わんばかりに見開かれている


「嘘っしょ・・・あんだけ浄化しといて、何でアイツ、まだピンピンしてんの・・・?」


 ・・・浄化、ねえ。


 正直話があまり見えてこないのが本音だ。

 とはいえ、このままおいそれと彼らを返していては葉佩の命は無いだろう。

 今回はこうして俺が介入することで何とかなったが、正直今回限りの策だ。


 ――次も勝てる保証など、どこにもない。


 だからこそ、ここで彼らの狙いを明らかにし、それに沿った対処をしなければならないと俺は考えた。


 その結果がこれ。

 ガラクタの山から彼らを見下ろすクソ王様スタイルなのである。


 ・・・いやごめん、他意は無い。俯瞰したかっただけだ。


「もっかいだけ聞くぞ、お前らは何者で、何が目的なんだ?」


 このままでは埒が明かない。こうしている間にも夜は更けていく。こんな状況を万が一にでも一般人に見られたら劣勢なのは俺だ。間違いない。こんな偉そうにガラクタの山にふんぞりかえってるのだから。


 俺の言葉に、金髪野郎とツインテールギャルは相変わらず無反応だった。


 しかし、丸眼鏡の男は


「外道が・・・言い残したことはない。とっとと殺せッ!」


 としっかり俺にレスポンスする。


 ・・・こいつ、なんだかんだ言って俺の話まともに聞いてくれてんだよなぁ。


 命のやり取りをした相手とは言え同じ人間。好感を持たないでもない。


 よし決めた、こいつにしよう。


「なあ、アンタ、名前は?」


 丸眼鏡の男をまっすぐ見つめて、問いかける。

 俺の視線に、丸眼鏡の男もはっきりと気付いたようだ。


「外道に名乗る名前など・・・持ち合わせていない・・・」


 何でさっきからこいつ喋り方こんな独特なの。


「俺は久利。久利功善だ。別に名前くらい教えてくれたっていいだろ」


 俺の言葉に丸眼鏡の男は少し驚いたような顔をして、少しの沈黙のあと答えた。


「・・・東條政信とうじょうまさのぶ、それが俺の名だ」


 あっさり教えてくれた。


「おっけい、東條、よろしくな」


「・・・ふん」


 ありゃ、案外悪くない手ごたえだな。

 「よろしくなどと言われても返す言葉を持ち合わせていない・・・」みたいな返答が来るだろうと思っていたが、絶妙に距離が縮まったか?

 

 俺はこの機に乗じて畳みかけることにした。


「東條、アンタらはなんで葉佩を襲ったんだ? 俺が知りたいのは、それだけだ。それさえ教えてくれたらとっとと解放する。約束する」


 俺の言葉に、東條は怪訝そうな顔をした。


「なぜ? だと? 貴様それは本気で言っているのか? の貴様が、曲がりなりにも我らと同じであるはずだというのに、そんなことも分からないのか?」


 少し怒気のこもった声に、俺は首をかしげる。


 あれ? 何か俺変なこと言った?


 てか魂の解放者ってなに? 


 そんな俺の?は置いてけぼりにして、東條は噛みしめるように言葉をつづける。


「――彼は」


 いや、と。遮って、


「――そいつは」


 言葉に重りをつけて、

 刻み込むように、


「――、この街に蔓延る数多の煩悩の頂点に君臨する者だ」




「・・・煩悩の、王?」



「あぁ、そうだ。王が居る限り、この街の崩魂は消えない。――この街に蔓延る煩悩は消えないんだ」



「・・・・・・」


 煩悩の王。



 そも煩悩とは崩魂を生み出す親玉のようなもの。



 俺にとって煩悩は敵であり、武器でもあり、




 そして、――






 ――俺から大切な人を奪った、この世で最も忌むべき存在。

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