第16話 決着
「――荒魂装纏・羅刹天穿」
俺の右腕を軸として、光りの柱が天を衝く。
その光に当てられた物質は悉く灼け落ち、灰と化していく。
路地裏の住宅街に取り付けられた廃棄パイプや、部屋の窓からはみでた角材など、ありとあらゆる存在が消滅していく。
「――んなッ・・・バカなこと――」
金髪野郎の驚嘆の声が聞こえる。
「俺の――刀がッ――」
極限まで照射範囲を絞った光線は、金髪野郎の体――ではなく、その手に握られていた刀のみを焼き焦がす。
「感謝しろよ、俺は無駄な殺生はしない主義なんだ」
「――てめっ! 舐めやがってぇぇえ!!!!!!」
俺の言葉に激昂する金髪野郎。
しかし、そう言いながらも彼は空中で態勢を崩し、高所からの落下を待つのみ。
俺の意識は一旦金髪野郎から離れる。
――あとは、こいつだな
思いながら、下を向く。
俺の両足首を掴む手は、――もう無かった。
同時に背後からの殺気を感じとる。
「――覚悟」
「――ッ!」
――こいつ、いつの間に――
瞬時に右腕を後方へと薙ぎ払う。
しかし、手ごたえはない。
振り返った先に、宙に浮かぶ丸眼鏡の男の姿。
驚くべきことに、彼は空中で座禅を組んでいた。
「――なっ、なにしてんだおまっ」
思わず、漏れ出る言葉に丸眼鏡の男はさも当たり前のことのように答える。
「――心頭を滅却し、悪を討たん――」
言いながら、右手に握られた刀を、縦一直線に振り下ろす。
――衝撃波のような言葉を発しながら
「―――――――
――うるさい
そう言ったはずの自分の声すら聞こえない。
それほどの爆音、鼓膜を破るかの如き発声。
それでも尚、俺の右手は奴の斬撃に合わせた防御姿勢を取る。
頭蓋に降り注がんとする攻撃を、右腕全体を使って防ぐ。
荒魂装纏のお陰で強固な腕となっているとはいえ、それでも腕は腕だ。
「――っ、ってえええええええええええええ!!!!!!!!」
筋肉で抑えきれなかった衝撃が骨に染みる、俺の神経が悲鳴をあげる。
しかしそんな俺のことはお構いなしに、地面に着地した丸眼鏡の男は追撃を仕掛けてくる。
攻防の応酬の最中、丸眼鏡の男は口を開く。
「――魂喰らいが、どうして煩悩の王を助ける」
「あぁ? 何意味わかんねえこと言ってんだよ」
痛みに耐えつつ、俺は斬撃を右腕で弾き返す。
縦に横に斜めに。幾度となく繰り出される素早い攻撃が、俺の右腕を確実に疲弊させていく。
魂喰らい? 煩悩の王だぁ? なんのこったよ、それ。
訳わからん言葉を理解するために割ける思考のリソースは無いが、割くまでもない。
なんだそれは。
「はっ、惚けるのが上手だな。流石、我らと同じ力を持ちながらも、道を踏み外した愚者なだけはある」
「あ? 誰が愚者だよ」
「お前だが?」
手数で圧倒する丸眼鏡の男が、余裕そうな表情で俺を嘲笑う。
めっちゃムカつくなこいつ。
斬撃をもう一度弾いて、俺は一旦大きく跳び下がる。
丸眼鏡の男は呼吸一つ乱さず、刀を構え直した。
「調子に乗っているところ悪いが、俺はあの二人より強い。そう易々と倒せると思うなよ」
美しい刀身が闇夜に照らされる。
『相棒、押されてるじゃねえか、負けんなよ』
ここぞとばかりに煩悩が顔を出した。
散々黙りこくっていたというのに、今更出しゃばってくんなよ、と思う。
『本気出しゃすぐだろ、あんなの』
皮肉のような嘲笑のような声が、俺の脳に響く。
「――うるせえ」
『なんでさっきから敵の命なんか気にしてんだ? 一発ぶっぱなせば塵芥だぜ、あんなの』
「――うるせえって」
『――人間だからって、手加減すんなよ』
「――――――ッ!!!!!」
俺は自分の胸を右腕で力強くたたいた。
心臓が止まるかと思うほど強烈な衝撃と痛みが、胸部に走る
胸骨が、あばらが、鎖骨が、全身の骨がきしむような感覚。
「――黙ってみてろ、クソ煩悩ッ・・・」
『ケケッ、相変わらず俺様には容赦ねえなア・・・』
痛みに耐えながら、今度こそ煩悩の声を振り払う。
激痛故か、思考がクリアになっていくのを感じる。
「な、なんだ・・・ついに・・・おかしくなったのか・・・」
目の前の丸眼鏡の男は、俺の奇行に戸惑っているように見えた。
好都合だ。
もう、これ以上時間をかけてもいられねえ。
「一発だ、この一発で、決めてやるよ」
宣言。
丸眼鏡の男に向けたものでもあり、
俺自身に向けた誓いでもある。
「――はっ、調子に乗るなよ、畜生が・・・」
丸眼鏡の男が腰を落とす。
その瞬間、勝負は決する。
「――――‐‐‐‐‐‐‐‐――‐――‐‐‐ぁ」
「悪いな。――俺とお前じゃ、賭けてるモノがちげえんだ」
丸眼鏡の男が踏み込むよりも前に、俺の拳が丸眼鏡の男の腹部にめり込んでいた。
「――がッ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はっ・・・」
丸眼鏡の男が地面に倒れる音が響く。
「・・・くそっ・・・何してんだか・・・俺・・・」
全身から力が抜けていくのが分かる。
当然だ。
俺は、俺の魂を燃料にしているのだから。
「ぐっ・・・」
あまりの疲労に足元がおぼつかない。
片膝を地面に着いて耐える。
そしてその先に、――彼の顔を見据える。
横たわり、力無げにこちらを見つめる、彼を。
「・・・久利・・・くん・・・。どうして、ここ、に・・・?」
葉佩リョウ。
ただの高校生。
俺がここに居る目的。
「・・・よお・・・正月ぶりだな・・・元気してたか・・・?」
痛みを堪えながら発する俺の言葉に、葉佩リョウは少しだけ笑った。
「・・・うん、元気、だったよ」
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