第14話 3対1
「――
真っ先に俺の元へ飛び込み、攻撃を仕掛けてきたのは、ブロンドのツインテールを揺らす美少女だった。
振りかぶった大斧らしき武器が風を斬りながら豪快に振り下ろされる。
――いや、見た目に似合わず豪傑過ぎんだろ!
「――ッと!」
ツッコミが喉元から飛び出そうになりつつも、俺は最小限体を捻らせて、その斬撃を避ける。
大振りの一撃だ。タイマンなら後方に飛んで避けるのが吉だったろうが、集団戦となれば話は変わる。
「――チッ」
美少女の顔が、一瞬にして不機嫌そうな表情に変わる。
なんていうか、めっちゃ人間っぽいな。人と関わることが全くない俺からすると、少し新鮮だ。
が、これまたそんな無駄な思考に時間を割いている暇はなく、
「どりゃぁあああぁあぁぁぁぁぁ!!!!」
『――上だ』
「――わかってる!」
煩悩の指示とほぼ同着で、俺は頭上からの攻撃に気付く。
なるほど。この美少女の攻撃は、この金髪野郎が頭上から攻撃するのを悟られないためのカモフラージュ。
もし美少女の攻撃を後方へのジャンプで回避していた場合、着地点に合わせて放たれるこの攻撃は避けられなかったろう。
用意周到な二段構え。
化物共とは違う、理性で組み立てられた作戦行動。
――だかしかし、
――理性は、本能による数多の経験知で凌駕する
「っ、きゃっ!」
瞬時に目の前の美少女を蹴り飛ばし、その反動を活かしたまま――バク宙、いわゆる後方への宙返りを試みる。
踏み込みの出来ない状況で、可能な限りの回転力を以て、頭上からの攻撃に足先をぶつけるために。
荒魂装纏・金剛羅刹によって増幅された筋力が超人的な行動を可能にする。
そして、超人的な肉体そのものを、構成する。
俺のつま先は、もはや並みの金属よりも強固だ。
「――がッ! どうなってんだよ、それぇっ! つま先で刀止めるとかっ、あり得ねぇっ!!!!」
刀の切っ先と、俺のつま先が激突し火花を散らす。
火花は暗闇の路地裏を小さく照らした。
「――止まってるんだから、わちゃわちゃ騒ぐな」
うるさい奴は嫌いだ。俺は。
教室の隅っこでラノベを読む時に、必ずブックカバーで隠して読むくらいの慎ましさを持て。
そうして、互いの攻撃の威力は相殺され俺は地面へ、金髪野郎は空中へと押し戻される。
体制を立て直せない空中に居る相手が不利なのは一目瞭然。――チャンスだ。
「ここからは俺の番ッ――あ?」
しかし、追撃を試みようと地面を蹴ろうとしたところで、俺の行動は止まる。
俺の足が地面から離れない。踏み込みを許さない。
何が――
視線を落とした先に、その原因はあった。
「――なッ!?」
俺の両足首が掴まれている。
地面から割れ出て、伸びている人の手で。
――あー、なるほど。
――3対1、だもんな
理解する。
こいつは、あの丸眼鏡の男の手だ。
二段構えならぬ三段構え。しかも、単純な三連攻撃ではない。
――ここまで相手の作戦通りなら、本命の攻撃は、この次。
「――今度こそッ! はぁああああああああああああああああっ!!!!!」
一度は弾き返した金髪野郎が、住宅街の壁を足場にして力を溜めているのが見えた。
彼の持つ刀に、真っ赤なオーラが纏われていくのが分かる。炎とも違う、血のように赤い紅蓮の空気。
――あれ、まずいな、これ
「ぐっ、ぬ、抜けねぇっ! くそっ!」
俺は必死に足を掴む手を薙ぎ払おうとするが、一向に離れる気配はない。相当な忍耐力と握力だ。
そうこうしているうちに、頭上の奴がついに飛び出してくる。
「死、に、腐れェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!!!!!!!!!!!!」
落下するエネルギーを存分に充填した斬撃が、俺の脳天目掛けて降りてくる。
喰らえば一撃であの世行きだ。
「――――――っ」
世界が、静寂に包まれる。
金髪野郎の叫び声も、煩悩の声も、何もしない。
音すらなく、俺含めた世界の全てが、止まってみえる。
これが死に際の走馬灯にも似た感覚なのか、と俺は思った。
だが、違った。
これは俺の魂に訴えかけるための舞台。
俺を無理やりにでもステージに立たせるためのきっかけ。
「・・・久利、く・・・ぜん・・・くん・・・?」
後方から、消え入るような彼の声が聞こえた。
この場で俺の名前を唯一知っている、彼の声。
そして、俺がこの場に居る意味。
「――――――――――――」
俺の名を呼ぶ彼の声が、なぜかアイツの声に重なった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます