煩悩の王
1月9日(月)
第9話 始まり
「――お、これはこれは! 元旦から我らが校舎に不法侵入かましたリョウちんじゃ~ん! おっはー!」
「何言ってんのよバカアキラ! 全部あんたのせいでしょうが! ――ったくもう・・・リョウもこんな奴の言葉放っておけばいいんだからね。あ、あとおはよ」
「あはは・・・おはよう、二人とも」
1月9日、月曜日。
あの出来事から、一週間が経過した。
今日は冬休み明け一発目の始業日だ。
僕をいつものようにからかうのは、クラス一のお調子者、
そしてそれを諫めるのは、アキラと幼馴染の
二人とも僕の大切なクラスメイトだ。
が、なぜか今、二人は僕の目の前で取っ組み合いをしている・・・
・・・
・・・あ、御子柴さんがアキラくんの後ろを取って、その首を腕で囲った。
「あんた正月早々調子に乗りすぎッ! リョウに謝んなさいよ!」
「――うッ! まてミカ! 首! 首決まってるッ! 正月早々じぬっゥ!―――――――――」
「ふ、二人とも・・・――ん?」
アキラくんの顔がみるみる青ざめていくのを見ていた僕の肩を誰かが叩く
「おはようリョウ。久しぶりだな」
「あ、古屋くん、おはよう、久しぶりだね」
高身長高スペック。文武両道であり、男女問わず学校随一の人気を誇る
彼もまた、眼前で争い続ける二人のクラスメイトと同じ大切な友達であり、
僕らのグループの一人だ。
「しかしリョウ、よく一人で校舎になんか入れたな。学校の玄関は施錠されていそうなものだが・・・」
「うーん、それはそうなんだよね。最初はてっきり、皆の内の誰かが、もう先に入ってるから鍵が開いてるんだ、と思ったんだけど・・・」
「さ、流石に、元旦から深夜の校舎に忍び込む勇気は俺には無いな・・・」
「だ、だよね・・・僕もどうかしてたんだと思う・・・」
――実は、中に化物が居たんだ
――それどころか、僕を助けてくれた謎のヒトも居たんだ
などとは、いえるはずもなく。
「まあ、アブナイ目に合ってないなら、何よりだ。アキラには俺からも強く言っておくよ・・・とはいえ、もう十分罰を受けているようにも見えるが・・・」
「・・・み、みたいだね・・・」
カイトくんの視線を追って、僕は苦笑いする。
そこには泡を吹きそうになっているアキラくんとそれを見て満足げに仁王立ちしている御子柴さんが居た。
さながら害獣退治でも成し遂げたかのような構図である。
「さあアキラ! リョウに謝りなさい!」
「す・・・ぅずまない・・・リョウ・・・」
「もっと心を籠めてッ!」
無慈悲なグーパンがアキラくんの顔を襲う。
「――うぐっ! ほ、ほんとにすまなかった・・・リョウ・・・」
「い、いや僕は全然大丈夫だよ、アキラくん・・・御子柴さんも、もう大丈夫だから・・・」
「ホントに? 遠慮しなくていいのよ、リョウ」
「え、遠慮というかもはや心配というか・・・」
流石にもう反抗する気力も残ってなさそうなアキラくんをこれ以上痛めつけるのも見てられない。
大体、僕はアキラくんが冗談であのイベントを計画したことも、そしてそれをまんまと信じてあの場に行ってしまったことでさえ、大して気にはしていないのだ。
「・・・リョウって、ほんと優しいよね。損するよ? まあそういうとこ、嫌いじゃないけど」
御子柴さんはそういうと、アキラくんの頭をぽんっとはたいてから自分の席に戻っていった。
ぺたりと床に座り込んだアキラくんと、それを見下ろすカイトくんと僕。
「・・・ありがとぉ・・・リョウちん・・・そしで・・・すまん・・・」
「・・・なあアキラ。今日はお詫びがてら、リョウと飯にでも行かないか? ラーメンでも奢ってやろうぜ」
「・・・ありぃ・・・ありよりの・・・ありぃ・・・」
「リョウも、それで良いか?」
ボロボロになったアキラくんの肩を持ちながら、爽やかさいっぱいで僕に話を振るカイトくん。
かっこいい・・・。
僕は惚れ惚れしながらコクコク頷いた。
「よし、じゃあそれで決まりだ。ぼちぼちHRも始まるし座ろうぜ、リョウも肩貸してくれ」
ボロボロになってしまったアキラくんをなんとか席に座らせてから、僕も席に着いた。
教室には続々と他のクラスメイト達も入ってくる。
憂鬱そうな人や、久しぶりのクラスメイトとの再会に喜びを隠しきれてない人など、その様相は多種多様だ。
かくいう僕はというと・・・
憂鬱でもあるし、嬉しくもある。そんな複雑な感情だった。
・・・なんだ。とても地味でありきたりだな、と僕自身も思う。
でも、僕はそういう奴なのだ。仕方ない。
「おーしお前らー席に着けーい。新年一発目のHR始めんぞ~」
そうこうしているうちに、我らが担任が教室に入ってきた。
ざわついていた教室が徐々に静まって、正式にHRが始まる。
「え~皆、あけましておめでとう。こうして始業式を健康で迎えられたことは何よりも良いことだ。今日からの当面の予定だが――――――」
先生のありがたいお話コースに入ったと分かった途端、僕の視界は微睡み始める。・・・冬休み中に出来上がった不規則な生活リズムのせいで、とめどない眠気が襲ってきたのだ。
まだまだ寒さの厳しい一月と言えど、教室中央に置かれた石油ストーブのあったかさが僕の睡眠環境を無駄に整えてしまう。
ちなみに、僕の席はストーブから・・・zzz
いかん・・・ホントに眠い・・・気を抜いたら一瞬だぞ、これ・・・
と、そんな中。
「――――――――――――――――」
睡魔との無益な争いをよそに、
耳にするりと入り込んできた先生の言葉で、僕はハッとする。
「――っ!」
思わず、体がびくりと跳ねてしまった。
「お、どうした葉佩、そんなにビックリして」
「ふぇっ、あ、いや、いま・・・先生なんて・・・」
「はっはっは、お前がそんな新鮮な反応をするとは、先生もビックリだ。そんなに楽しみか?」
――転校生が
僕は、息を飲む。
――もしかして
この数日、忘れようと努めていたあの出来事が一気にフラッシュバックする。
あの光景が、化物が、彼が、
鮮明に蘇る。
――転校生って・・・
「まあ、そんあ焦らしても仕方ないからな、さっそく入ってもらうとしようか。おーい、もういいぞー」
先生の呼びかけと共に、教室のスライドドアが勢いよく開けられる。
「今日からこのクラスに入ってもらう、私立聖翔学園からの転校生たちだ」
「―――え」
声が漏れる。
気付けば、眠気が全てストーブの燃料になったのかと思うほど、すっぱりと眠気は消え去り、僕の体はこれ以上ないほどに熱くなっていた。
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