第27話 この花を君に4
「ウェインの馬鹿!」
翌朝、メイラさんと一緒に訪れた村長の家で再会したチコの口から出て来たのはさっきの第一声と目がちかちかするほど強烈な頬への平手打ちだった。一瞬何をされたのか理解できずにぽかんとしてしまったが、徐々に痛み出す頬に我に返るといきなり叩いてきたチコに一言文句を言おうと顔を上げ…………凍り付いた。
「ごめん……チコ、俺の考えが甘かった」
真珠のような大きな涙をぼろぼろと流しながら、それでも真っすぐ俺を睨むチコに言える言葉はこれしかなかった。チコの為を想ってした行動がこんなにもチコを苦しめていたなんて……
「どんなに綺麗な花を見つけたとしても、あなたが無事じゃなければ意味がない。もう勝手なことはしないで! 何かするならちゃんと私に相談して、それはあなただけの問題なの? 私のことはどうでもいいの?」
「そんなことない! でも、俺は……チコが隣村の奴と、だから……急がなきゃって思って……あっ」
悲しそうな顔で俺に問いかけるチコに何を答えたらいいかもわからずしどろもどろに言葉を紡ぐ俺の頭をチコがささやかだけど確かな柔らかさを主張する胸に抱きしめる。
「ありがとう、ウェイン。その気持ちはとっても嬉しかった。でも、それ以上にダンジョンで無茶をしたあなたが死んでしまうんじゃないかって凄く怖かった……怖かったの」
「……うん、ごめん。もう、しない」
俺の頭を抱えるチコの手が震えているのを感じて、チコが感じていた恐怖と不安を少しだけ理解できた気がした。実際俺はあのダンジョンで死んでいた……たまたま最後のあの罠が転移の罠だったから、あの店が転移事故の被害者を保護してくれていたから、だから俺はこうしてもう一度チコを感じることが出来る。
「ん、んんっ! ウェイン、そろそろ本題に入ってもらっていいか?」
「あ」
感動に浸っていた俺の耳に村長のわざとらしい咳払いと不機嫌そうな声が響く。
「お父さん! 私はもう」
「黙りなさいチコ。私も父としてお前の気持ちを大事にしてやりたい想いはある。だが、村長としてはそうはいかない。この村はここ数年、強い力を持つ花を得られていない。村の畑は人の手による管理と領主から毎年下賜される低級の花でなんとかしてきたが、このままではあと数年でこの村周辺で作物が育たなくなる可能性が高い。そうなれば税が払えなくなる。そんなことになれば村の誰かを売るか、村ごと夜逃げするかしかない」
村長の厳しい顔に俺は唖然とするしかない。最近作物の実りが悪くなってきているのは感じていた。ここ数年農閑期の間だけダンジョンに通うようになったのも落ちた収穫量の穴埋めが理由だ。
「そんなに追い詰められていたなんて……」
「こんな辺境の村ではよくあることだ。村長としては村人たちを飢えさせないために政略結婚のようなことも考えざるをえん」
苦し気な表情の村長を見ればそれが本意ではないことは一目瞭然だった。でも、だったら! 今回の俺の無謀な挑戦は結果として間違ってなかった!
「ウェイン!」
「はい! すみません!」
なぜか俺が調子に乗る気配を察したらしいチコに秒で頭を下げると後ろ手にメイラさんからこっそりとあれを受け取ると、そのまま姿勢を正すと厳しい表情のままの村長の目を正面から受け止め、そして後ろに持っていたあれを差し出して頭を下げる。
「村長、俺はチコが好きです。チコと結婚させてください!」
「な……ウ、ウェイン……まさか、本当に見つけたのか? あのダンジョンフラワーを」
「はい!」
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