第26話 この花を君に3

 ダンジョンの街まで戻ってきた俺は宿を確保(もちろん二部屋)した後、メイラさんの希望で、まずダンジョンで倒した魔物の素材やポーションなんかを買い取ってくれる店へ案内した。多少損壊はあるけど、ほぼ丸ごと回収してきた魔物は業者に喜ばれて高値で買い取ってくれた。その後、メイラさんは他の世界から持ち込んだポーションをこちらのポーションと見比べて、高品質のものとしてここでも売れると判断したらしく、見事な交渉で大金を得ていた。俺は目の前で大金が動くのをあんぐりと口を開けたまま見ているしかなかったよ。


 そこからもメイラさんの動きは止まらなかった。この世界のお金を得たメイラさんは次々に武器屋、防具屋、道具屋、布屋、服屋などを梯子して多種多様な物をとにかく買い漁っていった。これは多分店長へのお土産なんだと思う。


「おお、これもトモが喜びそうだ。買っていこう。お! あれもいい、これも喜ぶな。よし、全部買おう」


 俺のことなんかそっちのけで買い物をするメイラさんは、ダンジョンにいた時のオーガっぷりは全くなくて完全に乙女だったと思う。シファさんだけじゃなくメイラさんにも、あと多分花屋のお姉さんにも? 好かれている店長は陰が薄そうな割に凄い人なんだと思ったよ。確かに包容力があって優しくて一緒にいて安心できる雰囲気があったけど、もっと女性を守れるくらいの強さがあった方がモテるんじゃないかな。そんな話をそれとなくメイラさんに振ったら、メイラさんは大爆笑していた。何故?


「ウェイン、確かにそれも男の魅力の一つだろう。だがトモの包容力や優しさも決して見劣りしない魅力だというのもわかるだろう? うむ、それにな……トモは強いぞ。あの程度のダンジョンなら私と同程度に戦えるくらいにはな」


 いやいや、さすがにそれは。店長って背は高いけどひょろりとしていて、とても武器を振り回すようには……そんなことを考えていた俺の顔を悪戯っ子の顔で見ているメイラさんを見て、なんだやっぱり冗談かと思ったんだけど……冗談だよ、な?


 翌日から俺の村に向けて出発した。出発直後に街で景気よく買い物をしていたのを見ていたごろつきから絡まれてメイラさんがあっさり撃退して街の衛兵に引き渡すなんてこともあったけど、それ以外は問題なく帰って来ることができた。到着が夜になってしまったので、今日は自宅で休んでチコのところへは翌日行くことにして恩人であるメイラさんには当然俺の家に泊まってもらうつもりだったんだけど。


「申し訳ないが遠慮させてもらう。求婚を控えたウェインにとっても、独身である私自身にとってもいらぬ誤解の種はない方がいいだろう? 私は裏庭を貸してもらえれば隅でテントを張るから気にしなくていい」


 確かにその通りだった。俺にもメイラさんにも全くそのつもりがないから簡単に誘ってしまったけど、本人達の気持ちよりも周りの人達からどう見えるかの方が問題ってことだよな。でも、そこをしっかりと線引きできるのもメイラさん自身に勘違いされたくない人がいるってことなんだろうな。そう考えるとあんなに豪快な人なのに可愛らしく見えてくるから不思議だ。きっと店長もそんなメイラさんに気が付いているからあんなに仲が良いんだろうな。俺とチコもそんな風になれたら……明日は頑張らなきゃ。

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