第25話 この花を君に2

 荒波に揉まれるような一泊二日を経て自分の世界に戻ってきた俺とメイラさんは予想どおり俺が罠にはまった小部屋へと戻ってきた。メイラさんが地図の魔道具で調べたところ、どうやら俺は逃げながら九階層まで降りてきていたらしい。

 またここに戻ってきたはいいものの、いくらメイラさんがいるからと言って無事に帰れるかどうかわからない。チコ、どんなにボロボロになっても必ず帰るからな!


 そんな俺の決意をあざ笑うかのようにメイラさんは規格外だった。


「いいよ、いい! ダンジョン浅層の魔物ですら、あたいの一撃を受けても一度で潰れないなんて! こんなに力いっぱい武器を振れるのは久しぶりだ!」


 綺麗な人なのに戦っているときはまるでオーガのようでちょっと怖い。やっぱり俺にはチコのような人が合っていると思う。そんなことを考えながら、大きな斧を振り回して進むメイラさんの余波を受けないようにして後ろを追いかけていたんだけど、魔物を易々と倒していく戦闘力だけでも驚いたのに、さらに驚いたのは勢い余って振りぬいた大斧が破壊不可能と言われていたダンジョンの壁を破壊したことだ。まあ、壁の向こうに小さな空間があったから多少壁が薄かったのかも知れないけど、本当にどうかしている。

 しかも! その壁の中にもともと俺が探し求めていたダンジョンフラワーを見つけたんだ。ダンジョンごとに花の咲く場所はいろいろ違うらしいけど、このダンジョンでは壁の中に咲くだなんて……どおりでここでは発見報告がなかった訳だ。

 見つけたダンジョンフラワーは店長からもらった花の状態を長期間保つという凄い植木鉢に移し替えてアイテムポーチにしまった。まあ、コチョウランの植木鉢は魔力さえ尽きなければ永久完全保存というぶっ壊れ性能だけどな。

 嬉しいことにこの花を見つけたことで、あっちで店長たちも少し気にしていたコチョウランの存在を公にして周囲に広まってしまった時に発生するだろう数々の危険も回避できる。だからチコへの求婚にはこのダンジョンフラワーを使う。もしそれでも村長が認めてくれないようなら最後の手段としてコチョウランを使うことに決めた。相談したメイラさんもその方がいいだろうって言ってくれたしな。


 結局ダンジョンはメイラさんが、魔道具で示された最短距離を大斧で無双して一日もかからずに脱出した。死にかけた俺の苦労はいったいなんだったのか……約束通りここまで戻ってこられたんだから文句なんかあるはずもないんだけど。本当に感謝しかない。


 メイラさんとはここでお別れかと思ったけど、シファさんからプロポーズの結果を見届けてこいと厳命されているらしく俺の村まで護衛をしてくれるらしい。比較的安全な街道だけど盗賊や魔物が出る可能性はあるので正直助かる。俺は今、マジックポーチだけでなく超貴重な花を二つも持っているし、店長からもらったいくつかの魔道具も変に人目に触れれば変な考えを持つ輩も出てくる可能性がある。店長もその辺は考慮してくれて、普通に使っていてもおかしくないような物にしてくれているけど注意は必要だ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る