第23話 ファーオ

「そうですか……うん、それでよかったと思います。お二人が結ばれることが大事なのではなく、お二人が末永く幸せであることがなによりも大事ですから」


 メイラの報告を最後まで聞いた店主は嬉しそうに微笑みながら何度も頷く。あちらの世界での胡蝶蘭の取扱いについては店主も少し心配していたため、念のため小型のアイテムポーチ(収納力:約一立方メートル)を渡して人目に付かないようにしていたし、いくつか護身、防衛用の装備も入れてプレゼントしてあった。だが、そんなものを使うような機会が無いにこしたことはない。


「はぁ、なんだか素敵ですね。これからお二人で頑張って欲しいです」

「それでな、トモ! そのあとあたいは一人でダンジョンに戻ったんだ。時間の関係で十階層までしか行けなかったが、あそこは楽しい! 今度一緒に行こう」

「お誘いは嬉しいですが、メイラが楽しめるようなダンジョンは私には荷が重いです」


 身を乗り出して誘うメイラに店主は笑いながら手を横に振る。


「何を言っているんだ? トモなら全然余裕だろうに」

「ちょっとメイ! トモさんなら大丈夫だとしても遊び半分に危険なところに連れていこうとしないで」

「はいはい、もう夜も遅いから騒がないでください」


 店主が軽くぱんぱんと手を鳴らしてグラスを手に持つと、それを見たシファとメイラも言い争いをやめて黙ってグラスを手に持つ。なぜなら慰労会の後、店主が手を叩いてグラスを持つのは締めの合図だからだ。


「では、改めて。今回のお客様にも無事御満足いただけました。シファ、メイラお疲れ様です。今回もありがとう。これからもまだまだ未熟な店主の私とこの店をよろしくお願いします」

「はい!」

「任せておけ!」


 

『ファーオ!』



 それはどこかの世界の言葉で団結と向上を意味する言葉。そして、それぞれ違う世界を祖国とする彼らが彼らの世界以外の言語を使用することで、この店に来店するどんなお客にも満足して帰ってもらおうという想いが込められた【よろず堂(仮)】店員たちの合言葉である。


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