第18話 準備

 他に寄り道もせず店へと戻ってきた一行は、地下の和室へと移動するとウェインが帰還するための準備に取り掛かった。

 店主はなにやら魔道具らしきものを取り出してどこかに連絡をした後、帰還に際して必要となりそうな物の準備。

 シファは三人で食べるにしてはかなり多めな昼食の準備。

 そして、ウェインは返却された持ち物の確認と修理希望がある物の選別である。


「荷物の整理はどうですか?」

「ああ、大体終わったぜ。特に修理が必要な物もなかったけど、贅沢を言えば武器と防具のメンテナンスが出来たらなぁ、くらいか」


 ウェインの世界基準で安物に分類されるロングソードや革防具一式は、確かによくみればくたびれている。外皮が固い世界のせいかロングソードには小さな刃こぼれも多いし、革防具にもそこかしこに大きな傷があり、革鎧に関しては接合部分に歪みも確認できた。まだ機能的に使用に耐えるとは言ってもこれからダンジョン脱出行に挑むという時に、僅かな不具合でも気になるというのは当然のこと。

 だがウェインは、剣や鎧を日常的に使わない世界でどうみても職人ではなさそうな店主やシファに剣の砥ぎや革鎧の調整までは難しいだろうと考えていた。


「できますよ」

「へ?」


 そんな考えをあっさりとひっくり返す店主の一言に間抜けな声を漏らすウェインには構わず店主は続ける。


「まあ、メンテナンスというよりはレストアですが。ウェインさんはこちらの武器防具に思い入れのある傷とかありますか?」

「い、いや、特にないけど」

「それなら良かった。ただ、ほぼ新品の状態に戻ってしまうのでもう一度体に馴染ませる必要があることも考えると今回は革手袋と革のブーツはそのままの方がいいと思います」


 これからダンジョンを通り抜けるのに武器を持つ手を覆う革手袋と、移動や戦闘の要となる足元を支える革のブーツに違和感が出るかも知れない状態は避けるべきだろう。


「あ、ああ、よくわからないけど任せる」

「わかりました。シファ、ウェインさんのロングソードと革鎧だけお願いします」

「はぁい、了解です」


 和室の台所から返事をしたシファが大皿に山盛りにした鶏の唐揚げを持ってきて卓に置くと、畳に置かれていたロングソードと革鎧に向けて手をかざして小さな声で呪文を詠唱する。

 シファの使用する魔法は精霊の力を借りる精霊魔法がベースだが、この店に来てからはいろんな世界の魔法知識などを取り入れて自分が使用しやすいように創作改良されているため、今や一般的な系統で分類するのは難しく、店主などからは『あえて言うならシファ魔法ですね』と言われているほどに魔法巧者になっている。


「はい、終わりました。ウェインさん、確認しておいてくださいね」


 こともなげに復元魔法を使用したシファは疲れた様子もなくすぐに台所へと戻る。


「お、おう……うわ! マジで新品だ! もともと買った時から刃こぼれとかしていた中古品なのに……シファさん、ありがとうございました!」

「お礼とかは別にいいから、ちゃんと無事に帰ってしっかりプロポーズしてくださいね」


 台所で鍋をかき混ぜつつシファがウェインに茶化すような激励の声をかけ、ウェインが「頑張ります!」と気合の入った言葉を返すと同時にチリンチリンと軽やかな鈴の音が響く。

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