第14話 花澄
「大丈夫ですよ、この世界での花はそこまで高級品ではありません。時期や種類によっては子供のお小遣いでも購入できる花も多いですから」
「あぁ……そうだった。でも、そうは言っても落ち着かねぇよ」
「仕方ないですよ、世界が違えば常識も違うのは当たり前ですから。それにその中でもトモさんの住むこの地球はかなり特殊だと思います。だからいちいち驚いていると身がもちませんよ。ね、トモさん」
常識の違いに戸惑うウェインを諭しつつ、スカートをひらりとさせて振り向いたシファが店主に向かってからかうような笑顔を見せる。
「確かに他の世界の話を聞くと、この世界は少し特殊かも知れませんね。魔法もスキルもない世界、かといって突き抜けた科学力や、独自の技術があるわけでもなく、それでいて一部では美食や遊戯、娯楽が多種多様で質の高いものが揃っていますから」
地球の科学の発展度自体は多くの世界と比べて進んでいると言えるのかも知れないが、店主が思い描く突き抜けた科学というのは、それこそ某ネコ型ロボットが取り出す不思議道具レベルであり、エネルギー問題や環境対策もろくに解決できていないような現在の地球科学はまだまだ未熟ということらしい。
「あら、店の前が騒がしいと思ったら、いらっしゃい。【よろず堂(仮)】さん」
「騒がしくしてすみません、花澄さん」
声を掛けられて振り返った先で、花に囲まれている店内から如雨露を持って出てきたのはエプロン姿で落ち着いた雰囲気を纏って微笑んでいる妙齢の女性だった。
整った顔立ち、女性にしてはやや長身ですらっとした細身。それでいてエプロンを大きく押し上げる胸元は女性的な魅力をことさらに主張し男性の目を惹きつける文句のつけようのない美女なのだが、ほんわかした空気感と優しい表情が母性を感じさせるのか無茶なナンパをしてくるような男性はあまりいないらしい。逆に本気の交際を申し込まれることは多々あるようだが、今のところ交際に至ったという話を店主が聞いたことはない。
「こんにちは、花澄さん。今朝、連絡したとおりお世話になります」
「そんなかしこまらなくてもいいのよ。シファちゃんが来てくれるならお客様じゃなくても構わないんだから。新しいハーブティをまたブレンドしたから、またお茶しにきてね」
「わぁ、ありがとうございます! 花澄さんのハーブティはどれもおいしいから楽しみです。あとでまた日程相談させてください」
「ふふ、シファちゃんの好みは分かってきたから期待は裏切らないと思うわ」
【よろず堂(仮)】と取引がある相手の中でも、花屋『Backyard Flower』の店主である
「急な連絡ですみませんでした。今回の依頼にはどうしても花澄さんの協力が必要だったものですから」
「いいんですよ、具好さん。困ったときはお互い様ですし、お婆様の時からお世話になっている【よろず堂(仮)】さんのお願いを断るなんてありません。それに具好さんにお花に関することで私以外のところにお話を持っていかれたら、私、泣いてしまいます」
言いつつもほんわかとした笑みを浮かべる花澄に店主は母性のようなものを感じる。年齢としてはさほど変わらないかむしろ年下のはずなのに包み込むような包容力があり、話しているだけで癒されているような気持になる不思議な女性だった。
「花枝さんにはうちもお世話になりましたからお互い様です。それにこのお店がある限り植物関係のお話は一番頼りにしていますので、これからもよろしくお願いします」
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