第13話 花屋

「………………ぉ、ぉお…………す、すげぇ」


【よろず堂(仮)】のある『あまねく商店街』は、その周辺こそ下町然としているが大きめの通りを二本越えると景色が一変する。都心に繋がる主要路線の大きな駅があり、その周りには大きなビルがいくつもあり、様々な店舗から流れる音楽や、数多くの車両と人が道を行きかう音で溢れているため、喧噪に慣れていない者はやや騒々しいと感じるだろう。

 ウェインも歩を進めるにつれ徐々に変わっていく雰囲気に終始あんぐりと口を開けたままであった。


「やっぱりこうなりますよね、私やメイラも最初はそうでしたし」

「異世界に来たのですから当たり前ですよ。私だって他の方の世界にお邪魔したときにはそうなります」


 きょろきょろとしているウェインが迷子になったり、周囲の邪魔にならないように気を付けながら店主とシファは雑談を交わす。


「そうですか? 私が見ている限りではそんなことなかった気がしますけど」

「シファと一緒にどこかへ行くころには、祖父にかなり鍛えられた後でしたからね」


 先代である祖父友吉から店とスキルを譲られる前に研修として、いくつかの異世界に連れ出されたときのことを思い出して思わず身震いする店主。どうやらあまり思い出したくないような世界だったらしい。


「ちなみにどんな世界だったんですか?」

「…………どうしても聞きたいなら今度暇な時に話してあげても構いませんが、あまりお勧めはしません」


 何とも言えない間の後に声を絞り出した店主に、シファの危機察知スキルが反応したのか引き攣った笑みを浮かべる。


「じゃ、じゃあ機会があればってことで」

「はい、機会があれば」


 その機会は多分来ない方がいいのだろうと悟ったシファは、話題を変えるべくウェインへと声を掛ける。


「ウェインさん、今日の目的地はもうすぐですよ」

「お、おう!」


 物珍しさから周囲をきょろきょろとしていたウェインはシファに声を掛けられて我に返ると表情を引き締める。


「ウェインさん、あなたの世界では花を取りに行くのに危険を伴うこともあるのかも知れませんが、この世界ではそんなことはありませんので力を抜いてくださって大丈夫ですよ」

「お、おう。そうなのか……」

「ほらウェインさん見てください。お店の前にたくさんのお花が置いてあるところ、あそこが今日お世話になるお花屋さんです」


 シファが指さした場所は、駅前の賑やかな区画から路地を一本奥に入ったところにある小さな花屋だった。店先に張り出した可愛らしいピンク色の庇の下には鉢植えを使った色とりどりの花を並べ、加えて店の中には無数の切り花も置かれ、さらに奥には温度管理が出来るスペースなのか温室のように透明ガラス様のもので区切られた場所もある。

 こじんまりとした店にこれでもかと花を集めたスタイルは植物園のようなイメージを受けるが、店内の雰囲気は温かな陽射しが差し込むようになっていることもあり、まるで計算された庭園のような華やかさと安らぎがあり、オーナーのこだわりとセンスの良さが感じられた。


「ぉぉお、おおい! こんな風に花が置いてあるなんて盗んでくれって言っているようなもんだぞ。盗賊団が総出で襲ってくるんじゃないのか」


 ウェインが花屋の店先を見て、慌てたように店主の腕を掴んで揺さぶる。ウェインの世界では花が咲く植物は希少で、店主が推測していたように地球での宝石レベルの貴重品として扱われていて、間違ってもこんな無造作に道端に並べられていいものではないらしい。

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