第4話 いたずら

「脱げましたら靴をお持ちになったまま左手奥の扉から中へどうぞ。中が脱衣所兼荷物置場となっておりますので、脱いだものや所持品を全てテーブルの上に置いてください。収納系のスキルやアイテムをお持ちの場合はその中身もよろしくお願いします。中のお部屋とテーブルには拡張系の処理がしてありますから所持品全てを載せることができます。お荷物を置かれると、置いた物を小さな絵にしたカードが出てきます。それが預かり証となっていますので漏れがないかを確認した後、それだけをお持ちになってもう一つの扉から次の部屋へお進みください。中には入浴後に身体を拭くためのタオルとお着替えを準備してありますので、入浴後はそちらをお召しになってください。入浴については先ほどもお伝えしたとおり中の壁にお風呂の入り方や道具の使用方法が記載されていますので、ゆっくりご確認されたあと浴室と書かれた扉の奥へお進みください。入浴してお着替えまで終わりましたら再度こちらの部屋までおこしください」

「ちょ、ちょっと待ってくれ。そんなに一気に言われても覚えられないって」


 笑顔のまま一気に捲し立てるシファをウェインが慌てて止める。ただでさえまだ現状に頭が追いついていない彼にシファの早口の説明は少々酷だったらしい。


「ですよね。でも、大丈夫です。やってもらうことや注意事項が番号順に記載された物がお部屋の中に準備されていますからそちらをご覧になってくださいね」

「ちょっ、だったらなんで……」

「すみません、ウェインさん。こら、シファ。またやったね。そうやってお客様を戸惑わせるのはやめるように言ったはずですが?」


 思わず抗議の声を上げようとしたウェインに頭を下げ、苦笑しつつシファを窘めたのは、タブレットと何かの図鑑のような本を手に持って和室に入ってきた店主だ。どうやらシファはこういった悪戯いたずらの常習犯らしい。


「ふふ、ごめんなさいトモさん。つい昔を思い出して」


 こぼれる笑みを抑えるように口元に手を当てたシファは素直に謝罪をするが、その言葉にはまだからかうような響きがある。

 

「おいおい、まだそれを引っ張り出すのかい? 君のときは私もいろいろ慣れていなかったんだから、そろそろ勘弁してくれてもいいんじゃないか」


 どうやら過去に似たような対応をシファ自身が体験したことがあるらしい。照れくさそうな笑みを浮かべる店主を嬉しそうに眺めるシファを見る限り、シファはそのときのことを持ちだして、ウェインというよりは店主であるトモヨシをからかっていたようだ。


「ごめんなさい。トモさんの反応が面白くて、つい」

「ウェインさんも改めてすみませんでした。人見知りのお客様も一定数いらっしゃるので基本的には説明が無くてもわかるようにはしてありますから問題はないと思います。それでもわからないことがあれば中に連絡用の道具がありますから声をかけてくださればすぐに対応いたします」

「お、おう。わかった」

 

 ウェインにしてみれば店主とシファのイチャイチャに巻き込まれたようなものだが、ひとまず危険から解放されたということを認識しつつあるウェインには、そろそろ突っ込む気力もないほどに疲労が押し寄せつつある。とにかく今は指示されたとおりに動くことを優先し、言われた通りに靴を脱いで手に持つと指示された扉から中に入る。

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