プレゼン2

「それでは開始いたします」



 表情を即座に隠したヒメのプレゼンが始まる。会議室のモニターを使って画面共有。今回はWebミーティング用のアプリを噛ませての発表となる(ホストは狩谷である)。アプリ越しで画面共有を行った場合、情報漏洩防止機能が働きチャットの通知などが表示されないからだ。通知設定を切っておけば済む話だが、今回は社外の人間が参加しているため万全を期しての態勢となる。この時代に物理的インシデントの発生など笑い話にもならない。オフラインにしてスタンドアローンにしてしまう案も出たが、万が一の可能性もあるため、今回の方式が取られた。



「……」



 一同が黙りモニターに注目すると、ヒメは一呼吸の間を作り、説明を始めていった。




 一スライド。

「それではまず、グリーングローブ市の人口と労働に関して改めて確認いたします。グラフを見ていただきますと同市は直近一年で右肩下がりの状況である事が伺えます。月単位で減少を続けており、現在同市に住む人間は高齢者がほとんどで学校のクラスも一クラス二クラスに留まっております。高齢者ばかりでは市場も活性化しませんし、発展も見込めません。現にグリーングローブ市にある商業施設はコンビニとスーパーマーケット程度。地域創造を行うには何においても人とお金が不足している。ここまでは、皆様共通のご認識だと思います」


 二スライド。

「ではどうやって人とお金を増やすのかという問題なのですが、外部から人を集める事を、私は提案いたします。具体的な手段としましては、工場や支社。商業、娯楽施設を誘致し、併せて居住区を開発していく形となります」


 三スライド

「そのために私は、ちょっと名前は出せませんが、派遣会社とメーカーの担当者に相談してまいりました。誰もが知っている業界大手の企業です。二社には合同で説明に参加いただき、非常に前向きなご返答をいただきました。内容としましては、工場を建てて正規雇用の管理職を置き、市内外、県内外から派遣社員を募集して勤務していただくという構図となります。これでまず労働の基盤が完成し、どこからでも、誰でも働ける環境が整う事となります」


 四スライド。

「更に、このグリーングローブの一部区画を商業、娯楽施設建設のために誘致いたします。労働者やその家族のため、企業に飲食店、レジャー施設を運営していただく形となります。こちらにつきましても幾つかの企業様とお話をさせていただいており、大変興味深く進展があり次第是非ともまた声をかけてほしいとの旨を仰っておりました。もし私の企画で決定した場合、大手スーパーマーケットとコンビニエンスストア。居酒屋チェーン等を展開する企業様など、各ご担当者様と契約に関するお打ち合わせのセッティングも確約しております」


 五スライド。

「こちらの企画につきましては類似した開発事業が過去に見られ成功しており、再現性も高くなっております。例としましては、とある企業が関西地方の離島にワーケーション目的で支社を造ったのですが、こちら、年々従業員が増加しており、新しい商業施設も随時進出していっている状況となっております。そして、情報インフラさえ整えば都会のオフィスに出社する必要がないという結果が出てからは多様な業種がこの離島に支社を出すようになりました。当初一社だけだったのが現在では四社が支社を作っており、企業間での交流も盛んとなっております」


 六スライド。

「また、ワーケーションは海外発祥の働き方となっており、アメリカやEUなどで多くの成功例が見られる他、ビジネスとレジャーを複合したブリジャーといった考え方も根付いております。この事から、外資系企業の誘致も十分考えられ、国内だけではなく国外からも人を呼べる可能性が考えられます。この事から、都市開発による住みよい街と豊かな自然が混然一体となったグリーングローブ市は合併当初の目的通りグローバルシティとして十分な機能を兼ね揃えると考えます」


 七スライド。

「昨今ではスーパーシティ構想といった計画も耳にしますが、グリーングローブ市もそれを前提として開発をしていきます。スマート化しビックデータを蓄積していって開発に活用していけば、隣接している市町村や県の企業進出。人口の流動性が発生する他、グリーングローブ市を目当てに訪れる観光客も増えシナジーが発生いたします」


 八スライド。

「総括となりますが、グリーングローブ市に企業を誘致し、労働環境、娯楽施設を中心に都市開発を行っていく事が私の提案となります。これに伴い各企業様とは話が進んでいるため、スムーズに開始が可能となっております。スケジュール感と大まかなデザインもでき上がっておりますので、後は詰めの部分さえ終われば着工可能となっている状況です。なお、費用につきましてはお手元の資料をご確認いただければと存じます」




 計八枚のスライドが終わると最後に「以上」と表示された。そのまま、ヒメは一同を見渡す。



「以上となりますが、ご質問等はございますでしょうか」



「……」



 誰一人として口を開かない。普通ならば形式的であっても誰かしら手をあげるものだが、本日そういった事もなかった。狩谷は既に資料について事前に確認をしているし、磯貝は余程問題がなければヒメの案を採用するようになっているから何かを聞く必要性がない。当然、議事録を記載する伊達には発言する権利が与えられていなかった。唯一何か言うとしたらミオしかいないのだが、彼女もまた押し黙り、じっとモニターを見ているだけだった。



「何もなければ終わりたいと思いますが、よろしいでしょうか


「そうですね。ありがとうございました」


「かしこまりました。ありがとうございます」



 一礼して画面共有を解いたヒメの作り笑顔の下には微かな優越感が滲んでいる。先程の苦悶はもう、彼女の顔から消えていた。



「では次、鳳さんお願いします」


「……はい」



 そして、ミオのプレゼンが始まる。

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