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 船で半日ほど、無事船は触手島沖合に辿り着いた。船主にお礼を言い、とりあえず数日後の同じ時間に迎えに来てくれるよう頼む。

 小舟を借りて島へと漕ぎ出す。フライの魔法でもよかったが俺もネメシスもウェンティを抱えて長時間飛べるほどは魔法が強くない。かといって例の技能も、だし。

 今の所は特に触手島という名称の由来となった現象はない。沖合にクラーケンだのテンタクルスだの居るのかとも思ったがそんな所は船主も断るし、そもそも軍が出る事案だな。

 「さ、上陸を見届けると同時に船長さんは帰るそうだし、急ぐとするか」

 「周囲を見る限りは怪しい気配は感じませんが、油断は禁物ですわよ。ウェンティさん、わたくし共の近くから離れないようにして下さいませ」

 「う、うん……」

 ウェンティの不安そうな顔を見てると年齢相応なか弱さを感じる。そんな彼女が記憶を取り戻そうと、一人旅という危険を冒そうとしてまでこの島を目指していた。本来なら記憶がないというのはそれだけ不安なのかもな。何だか俺の偽りの記憶喪失設定が悪い気もしてきた。アテナ達家族には早いタイミングで話さないとな。


 ……小舟が浅瀬に入り、俺は二人に目配せし、事前に相談した通り残り15mほどをフライの魔法を使って目前の砂浜に行こうとした。

 「では、行きますわよ?」「お、お願いします」

 ネメシスに抱きかかえられたウェンティも不安そうだ。まずは俺が先立って着地し、それを見てからネメシス達が飛んでくる手筈だ。

 

 不安と緊張を感じつつフライの呪文を唱え(無詠唱も出来るが)、俺の身体はゆっくりと砂浜へ飛んでいき着地しようとした瞬間、


 ……


 うわあああああああああああああっ!!


 ……


 ……と、大声を出した訳じゃないが、砂浜から長さ30cmほど、太さ1cmほどの大量のピンク色の触手が、ちょうど俺が着地しようとしたのを見計らったが如く伸びてくるっ!!


 直径2、3メートルの狭い範囲に何十~何百本? ものゆるぬるとした軟体生物がイトミミズが如く蠢く姿は見ていて生理的な嫌悪感を催してくる。


 「旦那様っ!! そのまま、浮いていてくださいましっ!!」


 ゴオオオオッッ!!


 背後の小舟の方からネメシスの呪文の詠唱が聞こえ、ボオッ!っと俺の足元が一瞬で焼き払われるっ!!

 あはれ触手共はまるで火炎放射器で燻されるが如く焼かれていく……ネメシスの炎魔法だろうが燃え広がった炎も熱くはない。とはいえ炎の上に降り立つ趣味もないので、近くの岩の上に降り立つ。


 「お、思わず焼き払ってしまいましたが……何ですの、あれ?」

 「……うねうね?」

 船上から心配? をしてくれる二人。遠くの船で待機していた船長も突然目の前で起こった事態に戸惑っているようだ。

 俺は恐る恐る、ネメシスの炎によってまだ燻ぶる地面に手持ちのショートソードを取り出して突っついてみる。黒焦げになった触手だが少し動いているし、一部の触手は既に復元を開始しているようだ。何という生命力だろう。

 とはいえ緊急回避も発動してないし脅威になる物ではなさそうだ。靴で踏みつけてみると俺の足に絡みつこうと藻掻く様だがほとんど抵抗もなく剥ぎ取れた。こうしてみると哀れな生物だな……。

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