43

 フライの魔法を使い一度小舟に戻る。

 「少し吃驚したが、毒を持っているような様子もない。足元に出られてもそれに引っ掛かり転倒するほど力強いものでもなさそうだ。君たちには生理的な嫌悪感のが高いかもだが……」

 「いえ、わたくしはもっと悍ましいモンスターとも何度も戦っていますし平気ですわ……ウェンティさんは?」

 「う、うん……吃驚したけど、島の名前から想像はしていたし……大丈夫、だと思う」

 二人に意思確認後、船長の待つ船に戻り(緊急事態だしフライの魔法で戻った)あのような生物がいるのか聞いてみたが、何度もこの島には来ているのに初めて見たそうだ。立場上危険が予測される島に置き去りに出来ないと言ってくるが、

 「いや、当初の予定通り数日後に迎えに来てくれ。こちらは俺ともう一人が銀級冒険者だし、当初の予定に加えこの触手状の生物に関しての調査もしておく。無論自己責任という事で構わない。そちらもこの島への対応について一度戻って会合をした方がいいだろう?」

 と固辞して、俺達が再上陸後一度帰って貰う事にした。


 今度はネメシスが先に、フライの魔法で島に飛び立つ。砂浜に数メートルまで近付いた時に同じ様に触手共が出てくるが


 「……大地よ、震えよ……アース・クエイクっ!」


 と詠唱した瞬間、グラグラっと砂浜に局地的な地震が起きたっ! ヤシの木や小石等は勿論、先程俺が乗っていた50cmほどの岩すらも跳ねあがりそうだ。それと同時に触手達は半径数十メートルの範囲の地面から一斉に顔を出し、もがき苦しむ様にどんどん地面へと出て来るっ!!

 それは長くても50センチにも満たない個体だが、多分に数千匹もの触手が蛇の様にうねうねとのたうつのは見ていて気分がよくない。

 「これでほとんど、出てきたかしら? また焼き払ってもいいですが希少生物だったら困りますわね」

 とネメシスは言い、


 「風よ、薙ぎ払え! エア・バースト!」


 と詠唱し、砂塵とともに触手どもを纏めて吹き飛ばしたっ! 彼らは砂浜の左右に散らばって落ち、しばらく動かなかったが、そのうちもぞもぞと砂に潜り始めた。

 ネメシスはそれを確認後、砂以外何もない地面に降り立ち、つま先ををトントンと踏み鳴らして

 「もう、大丈夫みたいですわ♪」と、笑顔でこっちへ向けて言ってくる。


 「す、凄い……これが、銀級の魔術師の……魔法なんだ……」

 ウェンティが目をキラキラさせながら言ってくる。俺もネメシスのここまで派手な魔法は初めて見たが、確か彼女は炎がメインの筈だ。先程の地震魔法も、その後の風魔法も、その属性専門の魔法使いのような大規模なものだった。改めて彼女の、魔法使いとしての才覚を思い知る。


 「これは、おちおち夫婦喧嘩も出来ないな……」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る