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 森の中という事で思ったほど派手派手ではなかったが、ネメシスの魔法使いとしての実力は充分伝わった。機会があれば派手な魔法も披露していただきたいものだ。

 という事で帰路に就く。帰宅中もネメシスによるある程度のパーティ戦での心がけ等のアドバイスを聞く事が出来た。


 帰路も特にイベント等無く無事フルーツ村に辿り着いた。ネメシス御付の女騎士・ヘレネが出迎える。

 「皆様、お疲れ様でした。ネメシス様、湯浴みの準備も整っております。」

 「ありがとう、ヘレネ。早速いただくわ……ささ、旦那様方もご一緒に」

 「い、いや……気持ちはありがたいが」

 「半日ほどの旅路とはいえわたくしも皆様も汗でびしょびしょですわ。ささ、アテナ様もアルテミス様も遠慮なさらず!」

 汗のほとんどは例のエロエルフ式の魔力測定のおかげなのだが……と、いつの間にやらヘレネ始め護衛騎士団に囲まれ、俺たちはまたすぽぽぽーんと全裸にされ、湯気の立つ風呂の中に入れられた。


 「ってこの集会場にはこの様な湯桶も無かった筈だが……しかもタイミングよく丁度いい湯加減のお湯が入っているし」

 「わたくしの護衛騎士団はヘレネ始め全員魔法が使えますの。土や木材を利用して簡易浴槽を作る事も、瞬時にお湯を沸かす事も出来ますわ」

 そういえば優れた魔法使いがいれば、冒険途中で火や水の確保・身体の洗浄・新鮮な肉の調理等至れり尽くせり、って漫画もあったな。

 「わ~家のお風呂と違い大きい♪凄くいい香りがするし」

 アテナがもじもじしだす。確かに風呂からは久しく嗅いだ事のない、柑橘系のいい香りがしている。

 「都の方で流行っているシトラスという入浴剤ですわ。ほらアテナ様、こちらへどうぞ……お背中をお流ししますわ」

 「え、流石にそれは恐れ多いわ……」

 「アヤカート様の妻同士、遠慮する事は御座いませんわ……そのうち2人がかりでご奉仕する事もございますでしょうし」

 「ちょっとまた聞き捨てならない事を……ってやだっそんなに胸を押し付けないでよっ!」

 そういいつつアテナもネメシスも、きゃっきゃうふふあわあわになっている。嗚呼、裸の美少女2人が泡だらけでくんずほぐれつ、いいものだな……うちの風呂は狭く、一人づつ入るのがやっとだしなあ……今度外に風呂を作ろうかな?


 「ネメシス様、アテナ様も困惑しておられます。もう少し淑女としての嗜みをお持ちくださいませ」

 「全くだな……ってうおっ!」

 いつの間にか俺の背後に、ヘレネがいた。全く気配を感じなかったぜ……害意もないのでスキルは発動しなかったようだが。

 何故かアルテミス(狼)は、彼女に取っ捕まり泡だらけになって気持ちよさそうに腹を見せている……あのツンデレのじゃロリ狼のアルテキスが声も出さずに捕縛され……流石だ。


 しかし全く恥ずかしがる事もなく全裸の彼女も美人で、とても素晴らしいお身体をお持ちだ。普段は金属のヘルメットによって隠されていた紫色のストレートヘアーをタオルによってまとめ上げ、ネメシスより若干背が高く胸は彼女より少し小ぶりかな?という感じだが、スポーツ選手の様な健康的な筋肉美って感じでこれはこれで……ハアハア。

 って最近、俺のアヤカート君も節操なさ過ぎだな……沈まれ、俺のパトスよっ!

 「……アヤカート……正座……」

 ……地獄の女神に見られていたらしい……直ちに正座する僕は一体何者なの。もう尻に惹かれる事は確定だな……。


 「アヤカート様、アテナ様、ネメシス様のご指示通り、風の魔法の伝授を行います。座るのなら私の前にお座りください」

 ヘレネはその為に呼ばれたらしい。アルテミスを洗った後ほぼ無表情のまま正座する。

 「アテナ様は風の基本魔法であるウィンドとサイレント、アヤカート様はそれの強化及びウィンドウォール・フライの魔法をお授け致します」

 「大体名前で想像は付くが、どのような魔法なんだ?」

 「ウィンドウォールは複雑な風の流れを起こす事で、相手の攻撃を反らす事が出来ます。主に戦場にて流れ矢を防ぐのに用いられますね。フライはその名の通り少しの時間宙に浮かぶ事が出来ますが、鳥のように自由に飛べる訳ではございません。高所に乗ったり、逆に高所から落ちた場合の軽減用が主ですね。どちらも一時的に仲間に付与する事が出来ます」

 成程、どちらも防衛魔法としても優秀だな。俺も緊急回避やそれを利用した飛行が出来るがあくまで自分のみだ。特にフライはいちいち樹に登って落ちる事もなく飛ぶ事が出来るようだし有用だな。

 「ああ、宜しく頼む……ええと、目の前に座り額を付けるのだったな……」

 「いいえ、風魔法はその名の通り風、空気を媒介とする魔法ですので……失礼」

 というと目の前に座った俺に立ち膝で近付き

 

 むちゅう


 「!?」


 何と思いっきり、キスをしてきた。それと同時に口に吐息が送り込まれる。

 「……ぷはっ、な、何をっ……」

 「ちょ、ちょっとおおおおおお!!」

 俺が戸惑い、アテナはまた激高しようとしたが、ネメシスが後ろから抱き留めて制した。

 「……ネメシス様からお聞きになってませんか?魔法使いは身体にあるその魔法に関する要素……炎魔法の場合は体温、水魔法の場合は体液、そして風魔法の場合は吐息を媒体に相手に魔法を伝授する事が出来ます。今アヤカート様にはフライの魔法を送り込みましたが、どうですか?」

 「……た、確かに……」

 ヘレネとのキスの後、先ほどまで判っていなかったフライの魔法のやり方が脳内に浮かぶ。少し念じてみると……

 「お、おおっ!」

 全身の体重が無くなったような感覚になったかと思えば、足元からゆっくりと10センチほど身体が浮きだした。その事に戸惑いバランスを崩し、前のめりに倒れてヘレネクッションに覆い被さってしまう。フニフニと気持ちいいナリィ……。

 「あ、アヤカートが浮いた……わよね?凄い……」

 「大丈夫ですか?しかし流石エルフですね、伝授してすぐ無詠唱で身体を浮かす事が出来るとは……」 

 「流石は旦那様、素晴らしい才覚ですわね♪かのエルフの大賢者はフライの魔法にて自在に戦場を飛び回ったそうですが、同じ事が出来るかもしれませんわね♪」

 「確かにな、いかにエルフとはいえ伝授したてでそこまでとは、あいつに匹敵する才能だな」

 それぞれアテナ、ヘレネ、ネメシス、アルテミスの言だ。まあ勿論既に飛ぶ事は出来るのだが、それでも美女(一人は狼だが)4人に褒められるのは悪い気がしないな。

 「ああ、ありがとう……しかし出来ればこういうのは最初に言って欲しいものだな。貴方のような美人と接吻(くちづけ)をするには少し人が多いしな」

 「ありがとうございます。そして申し訳ございません、てっきりネメシス様に伝授の方法について教えていただいてたものとばかり」

 無表情だが美人といわれたのが嬉しかったのか少し嬉しそうな素振りを感じる。

 「コホン、では引き続きウィンドウォールの方を伝授いたします……」

 アテナも仕方なくおとなしくなった所で、改めてヘレネと接吻を交わす。吐息と共に……舌を絡めてきた。しばらくお互いの唾液を交換し、ゆっくり名残惜し気に舌を離す。

 「……随分と情熱的だな……」

 「若い殿方との儀式は久し振りでして、柄にもなく緊張していましたわ……無事、伝授出来たでしょうか?」

 「……嗚呼、問題ない……今度は儀式じゃない処でその唇を味わいたいものだな」

 「あらっ、こんなおばさん迄口説くのかしら?いつでもご奉仕いたします……ネメシス様と、背後で襲い掛かろうとしているアテナ様のご許可が得られましたらね」

 ……って気付くと後ろから首にするりと蛇のようにきゅっとしなやかな腕が巻き付けられ、背中にやあらかくもささやかな弾力を感じる。耳元から温かい吐息が感じられ……


 「成 敗」


 コキッ


 「……見事ですわアテナ様、我が騎士団でも歓迎したいくらいの暗殺の腕です♪」

「女と見たら所構わず、婚約者の目の前でも口説こうとする外道を成敗しただけですよ」


 薄れゆく意識の中で、アテナとネメシスの声が走馬灯のように響く……DEAD ENdゲフン!

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