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 ま、こんな目立つ事やってればそりゃモンスターも来ますよねー。

 って落ち着いてもいられない。無論10m上空に奴らのジャンプが届きはしないだろうし、俺も群れの中心に落ちる訳はないが、目を付けられたのは厄介だ。知能の高いモンスターなら道具で攻撃してくるかもだし早急に降りたい。

 ……まぁ下の群れはともかく、兎や鹿位の動物を狩れないと食事もままならないだろう。

 下の群れを詳しく鑑定(鑑定スキルではなく平均的エルフの知識としてウィンドウが出る)してみるが、食用になる、美味、と見えた。美味、と聞いて急に腹が減りだした気がする。思えばこの世界に来て何も食べてないし、女神がくれた食料は温存したい。

 戦士系技能ほどではないがある程度生き抜けるだけの力もある、と言われてた。緊急回避もあるし……バッグからショートソードを取り出し……やってやるぜ!

 

 とりあえず後ろから襲われないよう大きな岩の前に移動する。

 数分後、先ほどの狼モンスターの群れが取り囲んできた。逃げ道がないように見える。

って岩の後ろの方からも気配がしている。その気になれば岩の上から襲ってくるかもしれない。これなら平地のがましだったかな?


 ……群れのリーダーと思わしき白い狼の合図と共に、数匹が一斉に襲い掛かってきた!

 ショートソードで1,2匹切っても他のが即急所を狙ってくるだろう、賢いな。


 ……だが……


 緊急回避LV99が発動しました。10分以内に回避をお願いします。


 とのアナウンスと共に周りの狼モンスター……ステッペンウルフというらしい……が一斉に動きを止めた。

 10m以上離れていた個体も、空を飛んでいたドラゴン?も止まったので、もしかすると時間停止というより俺の思考速度・身体能力が急上昇し、相手が動く前に安全位置に移動出来る、みたいな感じかもしれない。

 とりあえず上に逃げてもいいが、止まってる個体に近付き


 ザシュッ!

 

 大きく開けた口内に向けショートソードを突き刺した。生肉に串を突き刺す程度に抵抗を感じたが血は溢れない。それも停止してるのか?

 刺した個体を押すと宙に浮いた風船を押すように移動出来た。関節も動かせ変なポーズにも出来るが、相手の意志で動かしてないので多分に筋肉等に負担もかかるだろうし人間に多用するものではないな。

 

 さ、先ほどから既に3分ほど経過してるが……これも偶然気が付いたが、同時に2匹以上に襲われ、そのどれか1匹から危険な状態を回避後、別の狼の前に移動すると時間はリセットされる。つまりは多方向から常時危険な状態にあっている限り全部が当たらない位置に回避するまでずっと緊急回避は発動しているようだ。これに気付くと……


 ポーン!申し訳御座いません。その挙動は予測範囲外のものです。近日修正をいたしますのでそれまでそのような使い方はお控えください。次回からは回避時間を過ぎれば一度のタイミングで起きた危機は時間のリセットが出来なくなりますのでご注意ください。


 ……これは女神も盲点だったらしく、すぐに修正するので今回限り、というアナウンスが来た。残念……まぁ聞く所によれば女神も設定はしたが今まで使われた事はあまりなかったそうだし仕方ない。デバッグと思おう。賃金はいただくぞ、と言ったら

 

 只今の行動に伴い、お詫びとして初期所持金額を倍増致します。ご了承ください。


 というアナウンスと共にカバンの中の金が増えた。冗談だったのだが……。

 

 さ、バグだと判ったので早急に他の狼を始末する。考えたら生きた魚や虫なら殺した事はあるが、こういう大きな生物は初だ。思ったよりも嫌悪感はないが、まぁ血が出ていないというのもあるかもしれん。

 とりあえず襲ってきた3匹にショートソードを刺し、群れのボスらしき白い狼の後方に移動する。

 ボスを殺さなかったのは統率するものがいなくなると却って厄介かも、という判断によるものだ。

 3、2、1……ゼロ!緊急回避が解除されます

 とのアナウンスと共に、俺を襲った3匹から急に血が噴き出し、地面に倒れ落ちた。

 群れのボスはその様子に呆然とした後、俺に気付いて振り向き後ずさった。


 「その気になれば一瞬でお前らを全滅出来るが……まだ……やるかい?」


 とショートソードを片手に凄んでみた。考えたら言葉が通じるかも不明だが。

 群れのボスは一瞬躊躇したが……


 「……こ、降参する……ワシの命は差し出すので、せめて仲間たちの命だけは助けて欲しいのじゃ……」といって首を下げた。


 ……驚いた。この世界の狼は喋るのか!しかもどう聞いてものじゃロリ系の幼女な声だ。

 ……って喋っている(ように聞こえる)のはもしかすると各種族の言語理解のせいかもしれないが……いや周りの狼は吠えているだけだな。ともあれそのロリ声のせいかすっかりと気が抜けてしまった。


 「俺も目立つ行動をしていたしな……これ以上襲ってこなければ殺さない。さっさと去ってくれ」

 と言って追い返すように手を振る。いくら殺気充分に襲い掛かってきた奴らでもロリ声の狼を殺すのは忍びない。


 「わ、ワシも殺さないのか……?」

 「お前たちも食事の為襲ってきたのだろう?食物連鎖にまでは文句は言わんよ。そうだな……」

 俺は少し考え「この辺に人間やエルフの暮らす街はあるのか?」と聞いた。

 

 ロリ声狼は「こ、ここから北東にある川の上流に、我らの足で2時間ほどで人間どもの暮らす村がある筈じゃ。エルフはいるかどうかわからない」といった。

 狼の足って50km/hくらいとして、100kmくらいか。面倒だが俺の飛行速度は100mを10秒ほど、休みなしで飛べば2時間半くらいかな?


 ロリ声狼に「ありがとよ」といい、近くの木に登り、飛行を始める。

 呆然と佇むロリ声狼が見えなくなってから、そういえば狼を食べるのを忘れていたのに気付いた。まぁどのみちあんな声をする動物を食べる気にはならなかったが。


 ……改めて鹿の様なモンスターを見つけ、鑑定し食べれるかどうかを確認する……食用らしい。

 ショートソードを弓に持ち替え、遠間から慎重に狙う……結論から言うと弓技能のお陰か、無事に矢は鹿に当たり倒す事が出来た。

 「あ」

 ……考えたら、どうやって食べるべきか?血抜きだの色々と面倒だろうし、火を使うのも空を飛ぶ以上に目立つ気がする。そもそも解体も出来っこない。

 仕方ない(鹿だけに)、一度バッグに収納し、村に行った時の手土産としよう。時間経過はないらしいので腐る事もあるまい。

 しかしどう見てもバッグの入口よりでかい鹿の死体がすうっと入るのは実際見ると不可思議なものだな。


 途中で大きな川を見つけた。先ほどの話を信じるならばこの上流に村はあるそうだ。

 喉の渇きを癒す為川辺に降り立ち、飲んでみる。うん、上質なミネラルウォーターだな。

 少し休んでいると、丁度川に何らかの刃物で切ったらしい(人の手によるものと思われる)枝が流れてきた。どうやら本当に村はあるらしいな。

 流行る気持ちを抑え、村人に話す挨拶を脳内で何度も反復練習しつつ、ゆっくりと足を進めた。

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