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 ……視界が開けた……これは……雲?空?


 ……ヒュウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ!!という風切り音と共に、突然身体が落ちていく!

 「って、おおおおおおおおおおおおおおおおおいいいい!!!」 


 流石にこれは、予想してなかった。地面ははるか下、というかこの惑星?の丸み迄見えるのだが。

 空中から落とされるスタートとかどんなレアケースだよ!無論そういうラノベもいくつか見ているが、そちらは頑丈な肉体とか、浮遊出来るスキルを所持したうえでの事だ。この世界のエルフはまさか有翼人とか?と思って背中をまさぐってみたが、もちろん羽根は生えていなかった。


 ……落ち着け、落ち着け俺……こういう時に「緊急回避」が発動する筈だ……。

 だが説明を受けてもどのように発動するのかいまいち理解出来てなかった。まさか、実体験で覚えろという事か?

 そうこうするうちに、雲を突き抜け俺が転生する筈の大陸「ドムドラ」の形が見えた。まぁ特徴的なものもない海あり山あり湖ありの無難な形だ。まぁ形を知った所で今後ここで暮らしていけるのかどころか、大地の滋養になりかねない状況に追い込まれている訳だが。

 どうせなら下に見える海か湖の上に落ちて欲し……いや、そういえばある程度の上空から落ちた場合水面はコンクリートと同じ硬さになるらしい。緊急回避でその衝撃を殺したとしても、次の瞬間水の中……深さによっては連続で緊急回避が発動しても間に合わないかも……と思い、俺は空を泳ぐように必死に何とか方向を変え、地面を目指す事にした。


 ……まぁ、どのみちこの緊急回避が上手く発動しなければお陀仏だ。落下の恐怖で意識を失なっていた方が楽だったのかもな。

 後目測100mもないだろう……とりあえず死んだばっちゃん、今俺も行くかもしれな……


 カーンカーン!緊急回避LV1が発動しました。10秒以内に回避行動をお願いいたします。


 ……地面まで後1m、といった所で、脳内に甲高い鐘の音が鳴り響き、女神の声とそっくりの声が聞こえた。

 俺は落下している状態で空中にピタリ、と止まった。え?回避行動?なんだそれ?と考える暇もなく

 10、9、8……

 とカウントダウンの声が!

 ちょ、ちょっと待て……下は……草原のようだ。回避って言っても、俺は落ちてきてるだけだ。どうすれっていうんだよ!

 と考えているうちに時間は無情にも過ぎ、

 ……3,2、1、ゼロ!緊急回避が解除されます

 のアナウンスと共に、時間が動き出し……


 ドスン!


 「い……ってえええええええええ!!」

 無意識に手で頭をカバーし丸まった態勢のまま、俺は草原の上に落ちた。1mほどとはいえ頭から落ちたらやばかったが、何とか背中から落ちた。衝撃で少し意識が飛びそうになったが、結果的にはかすり傷程度ですんだ。

 数100mどころか数10キロ上空?から落ちてこの程度で済んだのは確かに素晴らしいスキルだが……こういうのは段階を踏ませろよ!

 俺の様なスキルをとっていない奴が落ちてたら……確実に死んでるだろうな。あの女神め、覚えていやが……


 カーンカーン、緊急回避のEXPが貯まりました。緊急回避LV1がLV2になります。効果時間が1秒増えました。効果範囲が10センチ広がりました。


 ……へ?


 カーンカーン、緊急回避のEXPが貯まりました。緊急回避LV2がLV3になります。効果時間が1秒増えました。効果範囲が……

 ……ちょ、ちょっと待て、まさか今の落下で……

 カーンカーン、緊急回避のEXPが……

 ……どうやらそうらしい。落ちただけでほとんど何もやっていない訳だが……。

 カーンカーン、緊急回避の……

 って、どこまで増えるんだ?いつまでも頭の中で鳴りやまぬ鐘の音に霹靂しながら、俺は辺りを見回してみた。


 ……何の変哲もない草原だ。草の高さはまちまちだが大体10~50センチ以下で、視界が塞がれるような事もない。

 高さ2m~高くても7.8mほどの木が散発的に生えている。遠くには岩山の様なものが見え、何らかの動物と思われし群れが移動しているのが判る。

 これだけならアフリカのサバンナか何かか?と思うが、空を見上げると……先ほど突き抜けてきた雲間から……2個の色違いの太陽が見える。うん、まごう事なき異世界のようだ。

 鳥の様なものも飛んでいるが、いや、あれはでかすぎるな……ドラゴンかワイバーンなのかもしれん。反射的にしゃがみ込み、短い草に隠れるように座り込んだ。


 座ったまま自分の恰好を確認する。素っ裸ではないが冒険をするには心もとないボロボロの服だ。腰にはショルダーバック状のカバンが巻かれている。

 とりあえず開けて手を突っ込んでみると、カンカン五月蠅い脳内に、事前に女神から渡された最低限度の装備品・食料・いくばくかの金が入っているのが見える。

 俗にいうマジックバッグというものか。手を動かすと脳内に、手の先にカメラを付け見ているような映像が浮かんでくる。成程ラノベのもこういう感じなのだろうか?

 鏡があった。取り出してみて覗き込むと……うん、まぁこういったら何だがイメージ通りのエルフだ。金色の短髪に緑の瞳、耳が尖り鼻も高く少なくとも前の世界基準では不細工には見えない。

 見た目年齢も、人間ならば多分高校生程度だろう。元の年齢に比べたら20は若い。

 全身を触ってみると、前の世界の運動不足の身体よりは細いが、筋肉はしっかりあるようだ。細マッチョという奴か?

 因みに俺、アヤカートの……アヤカート君はしっかりとそそり立っていた。人間生死がかかった時精力が増すというが……元の身体より立派に成長しているようだ。へそくらいまであるのに以前外国の無修正ポルノで見た外人のへにゃへにゃのじゃなく硬さも抜群?だ。


 カーンカーン……カーンカーン……


 ……しかし、まだ緊急回避のLVUPは終わらないのか?もぅ数10回は繰り返してると思うが……。

 

 カーンカーン、緊急回避のEXPが溜まりました。緊急回避LV98がLV99になります。緊急回避がカンストしました。効果時間は10分、効果範囲は10mになりました。ボーナスとして全てのステータスが+100されます。上位スキル「事前予測LV1」に進化します


 ……空から落ちただけで、上位スキルに進化してしまった。そうか、これが成長チートというものか……ま、普通なら10mも落ちただけで人は死ぬだろうし、その何100倍もの体験をしたんだから当然か。

 って落ち着いてられん、何だよこの「事前予測」って。選べるスキルにも入ってなかったし、字面で判断も出来ねえぞ……嗚呼、そういえば女神に教えて貰ったアレを……


 俺は周りに誰もいないのを確認し、ぼそっと呟く。


 「す、ステータス、オープン!」

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