スキル「緊急回避」で無敵スローライフ

あるまん

第一章

1

 ……シュワシュワという音を立てて、俺の身体が別の身体に作り替えられていく。

 痛みはなく不快でもないが全身をコ一ラの風呂に浸かりミン卜ス数100個を入れられたような妙な感じだ。

 「女神」曰くダウンロードゲームの初回読み込み時間の様なもので、一度読み込んでしまえば快適に動作するらしい。

 俺の様なゲーマーにも判り易いように噛み砕いたのだろうが、随分俗なイメージだな。


 自己紹介しておこう。俺の名は……アヤカート=オータス。うん、しっかりと「設定した名前」が「本名」として認識されている。

 「元の」名前もある事はあるが、好きな名前でもなかった。そのうち忘れ去るだろう。


 ……ああ、俗にいう「異世界転生」という奴だ。


 死んだのか、喚ばれたのかどうかは判らないが、気が付くと目の前に「女神」がいた。

 人間でいうと20代前半くらいだろうか? 美しいとか可愛いとかの基準でいうと多分特上の美しさなのだろうが、俺は生憎二次オタのロリコンで、最近の10~20代の女優やアイドルの顔と名前が一致しない程度には生身の女に興味もなかったので特に何も感じていない。


 ……もう少しあの主張の激しい胸が平坦ならば少しは興味も沸いたが。


 彼女曰く数10年に一度、俺のいた世界の人間から人種・年齢・性別等全くのランダムで選ばれ、彼女が創造した世界へと送られるそうだ。

 無論俺の世界の神様に無断でやっている訳ではなく、古くから交換のような形で双方に異世界人が送り込まれているそうだ。俺の国だけでも数に数万人の行方不明者がいるらしいが何人かはこちらの世界に来ているのかもな。

 俗にいうファンタジーと呼ばれる物語ジャンルの源流やいくつかの発明品もこちらの世界の知恵からもたらされたものらしい。   

 ま、この辺はしつこく追及するのも何となく危ないと思ったのでそこそこ聞くにとどめた。


 どうしてか、という理由も、然したる物はないらしい。カンフル剤というよりビタミン剤の様なもので、異世界人が来る事での世界への刺激は大きいが、曰く魔王が現れただの、曰くその知恵による文明の発展を欲しているだの明確な理由もないらしい。

 それはこっちとしても願ってもない。いくら強大な力を身に着けたとしても魔物を切り結ぶだけの生活なぞ御免だし、漫画やライトノベルの知識程度にしか生活の知恵など持ち合わせていない。

 選び方が全くのランダムというのも気に入った。どのような奴でもいい=面倒臭い使命を押し付けられる事もない筈だ。


 元の世界への未練も勿論ある。両親・兄と妹との間も悪くはなかったしネット友達だが数人気の合う奴らもいた。

 やっていたゲームや見ていた漫画の続きも気になるしな。名前も先ほどまでやっていたロールプレイングゲームの主人公につけていた名前からとったものだ。

 だがそういうのを考慮しても、俺はやはりオタクのサガか、この状況に憤慨するよりもワクワクしていた。


 転生する世界も、聞く所まぁ、テンプレって奴だ。中世ヨーロッパのような世界で剣と魔法が存在し、エルフやドワーフの様な異種族が生活し、ドラゴンが闊歩する世界らしい。ファンタジーの源流らしいから予測は出来たけどな。

 冷静に考えれば電化製品はおろかコ一ラやハンバ一ガ一も、多分に水洗トイレすら怪しい世界に転生しても苦労しか見えないが、特にひねりもないこういう世界の方が何かと俺の拙い知識でも役立つ所もあるだろう。


 彼女の説明によれば、転生にあたり種族の選択、職業の選択、そして「技能」の選択をしていいらしい。

 デフォルトで各種族の言語理解及び筆読が出来る能力が備わるらしい。それだけでも転生者は通訳として重宝されるとか。

 選べる種族は10数種類提示されたが、無難にエルフとした。例外もあれど体力はないが美しく、年齢も長く、弓や魔法が得意で、人間中心の世界としても迫害されているイメージはない。

 職業は……無職とした。エルフならば人間と違いあくせく働く必要はないだろうし、多分に長い人生ならどうせ色々転職する羽目になるだろう。職を決めてそれに捉われる事もあるまい。

 技能は……持つ事でLV1なら実働1年程度の技術を持つのと同等になるらしい。実践や気合の入った練習を繰り返す事でLVも上がる。

 英雄になるつもりもないし、生きていけるのに有利なら何でもいい。職につけばそれの基礎的な技能はいずれ備わるらしいしその辺は元の世界と同じか。

 エルフでは魔法技能・精霊との対話能力がデフォルトでつくらしいし、後はイメージ通り無難に弓技能と……


 お、面白そうなものを見つけた。


 「緊急回避」


 曰く、死の危険が迫った時自動的に数秒間周りの空間が止まり、その場から避難するか危険物を処理すれば動き出す、というものらしい。

 少し聞くと大変便利そうに聞こえるが、いわゆる回避スキルで、王族や英雄が暗殺を防ぐ目的に選ばれるらしい。

 完全に受け身なタイプで自分の身を護れても、まあ普通はド派手な攻撃魔法や、生産系のチートスキルを選ぶだろうな。


 ……俺は対して悩みもせずこれを習得した。

 俺の目的はスローライフだ。エルフになって寿命は充分、怖いのは(病気もだが)不意の事故による死だけだ。

 理由なく自ら危険に飛び込むつもりもないし、権力にも興味はない。となると戦闘技能等よりもこっちだろう。

 最初女神は怪訝そうな顔をしていたが、話すと理解してくれた。俺の前に連れてこられた奴らは割と好戦的な奴が多く、ほとんどが戦闘系技能を習得したらしい。俺もラノベ好きだしそういう技能に憧れを持つのは判らんでもないけどな。


 ……さて、いよいよ転生開始だ。身体を作り替えるまで少し時間がかかるらしい。転生先はランダムらしいが、まぁこの「緊急回避」があればそうそう死ぬ事もないだろう。

 最後に「ご武運を」といわれた。いやいや、だから戦う気はないって。


※なろうの方にて投稿している小説の再投稿となります。

とりあえず初日は1時間置きに5話迄、その後水・土曜日の21:00~23:00に1時間置きに3話ずつ最新話迄投稿するつもりです。

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