第62話 肉弾討論地獄

 拘束島には誰もいなくなった。山元与多郎は狂言を奇声を吐きながら溺死。玉置デーブは崇拝する中酷海兵隊により玉砕され、国策を邪魔した河負屁太郎は因縁をつけた水源で溺死。貴重な自然を破壊してまで中酷に媚びようとした大池小百合は、さらに偶者な候補者を倒すために仕方なく解放し、悪の芽を摘む役目を果たさせた。一難去ってまた一難。都知事選での最大の敵と目された露連峰は強酸党と手を結び自ら失脚し、三位に終わる。二位につけたのはこれまたカミツキガメの岩丸だった。

 大池は百万票も失った。次期は危うい状態になり得ない。風雲児のようにSNSを騒がせた岩丸は、二位につけマスゴミの注目を浴び、著名人との対談が幾度か行われた。そこで岩丸の思考が明らかになっていく。自らが正義であり、他の意見を聞く耳を持たない。その背景には、自分自身が正論者であり、他者はそれを理解できない偶者だという考えだ。行政に携わる者が最高裁の判決に従えない。法は法の場で戦い解決するならまだしも「私の考えと違う」と逆らうのはお門違いもいい所だ。


ゲル「少しも落ち着かないな」

海斗「ああ、狂っているこの国は。まだまだ、TVやマスゴミの影響力は衰えていな

   い。選挙に出向く連中はマスゴミに影響されやすい情報偏食者だ。自分たちに

   不都合な事実は触れないか陰謀論で片付けられる」

ゲル「どうするんだ。露連峰は元いた党から三下り半を受けたみたいだが、甘い汁を

   吸った者がそう簡単に諦めないぜ」

海斗「そうだな。ゲル、死神のメフィを呼んでくれ」

ゲル「どうするんだ」

海斗「力を借りる」

ゲル「あいよ」


 死神のメフィは訝しそうにのっそりと現れた。海斗はメフィを見るなり、単刀直入に要望を投げかけた。


海斗「死神なら○○地獄のようなものを設けることが出来るな」

死神「出来るさ。期間限定だが時間感覚は削がれるから疲労感は半端じゃないぜ」

海斗「それでいい。用意して欲しい地獄は、討論地獄だ」

死神「なんだそれは」

海斗「永遠に嚙み合わない議論を精魂尽きて干上がる迄続けなければならない地獄

   だ。精神的にも肉体的にもダメージは大きい。居眠りや沈黙が伴えば電気ショ

   ックでも冷水でも浴びせてやってくれ」

死神「それでいいのか。牛や馬に引かれて引き裂かれるとか石を抱かせるのもある

   ぜ。発言を止めたり、合意したら鼓膜にダメージを与える爆音が熱風とともに

   発せられるってのもあるぜ」

海斗「楽しそうだな」

死神「普段は単調な仕事だからな」

海斗「好きにすればいい、任せる」

死神「あいよ」

海斗「後は任せるぞ」

死神「お前、楽だな。まぁ、いい、引き受けた」


 死神のメフィはすぐさま討論地獄を用意し、海斗が名指しした露連峰と岩丸を夢の中で掛ける催眠術を用いて引き寄せた。


岩 丸「ここはどこだ」

露連峰「こんなの許すわけない。さっさと戻しなさい」

メフィ「威勢のいいのも今だけだ。さぁ、ショーの始まりだ。思う存分、醜い自我を

    吐き出せ。黙ったり、議論を終わらせようとすれば、牛の目の前に好物を差

    し出し左右に進ませる。藻掻いたり暴れれば、牛が興奮するから楽になれる

    ぜ。あっ、安心しろ、引き裂かれた肉体は時間が経てば元に戻る。完全じゃ

    ないがな。勝った方はその様子を至近距離で見られる特典付きだ。血・肉が

    飛んできて臨場感は抜群だぜ。さぁ、始めろ。幕は上がった」

岩 丸「なぜこんなことをする。止めてくれ、お前は誰だ、誰の差し金だ」

露連峰「そうよ、あんた、誰よ。名乗りなさいよ」

メフィ「死神さ」

岩 丸「死神ぃ~、ひぃぃ~」

露連峰「冗談はやめなさい。早く解放しなさい」

メフィ「解放したければ戦って勝て。じゃぁな」


 沈黙は危険だ。牛が左右に歩き出す。石丸、露連峰の手足は左右に引っ張られた。「きゃぁ~」「うわぁ~」。二人はどちらが優位かを吐き始め、ああ言えばこう言うの導火線に火が付いた。熱弁は高まり、のどが渇く。「水、水をくれ」と懇願しても返答はない。疲労で黙れば、牛は左右に少し歩く。「あわわわ」と発言を始める。

 二人は相手を理解する術を持たなかった。堂々巡りの不毛な討論が続く。どれほど時間が経ったのだろうか、精魂尽きた露連峰の声は枯れてでなくなっていた。牛が容赦なく左右に歩き始め、ぐっと踏ん張り頭を下げ、前に進むと「ぎゃぁっ」との声とともに露連峰の股間から血が滲み、スルメイカのように裂けて行った。暫くして声は聞こえなくなった。血が滴り落ちるのが止まると牛に繋がられていたロープが消え、裂けた体が近づき、結合されていった。少しズレたまま結合された体は左右対称にはならなかった。その様子を岩丸は凝視していた。目を逸らせば、熱風が全身を覆った。疲れが溜まっていた岩丸が負けた。これが何度も繰り返されていた。一度目より二度目、二度目より三度目と引き裂かれる割れ目は、のど元に辿り着き、顔の部分に至ると顔の皮が左右に引き裂かれ、引きちぎられた。顔の皮は床に落ちたゴミを拾い結合し、それを牛が鼻や後ろ足で蹴り転がし、目も当てられない容貌になっていく。変形の結末は、ゴミの山のような塊となっていた。

 しばらくすると熱風が吹き、乾燥した塊は粉末化し、そこに冷水が掛かると粉塵が巻き上がり、人型を築き始めた。最終的には、元の岩丸と露連峰が作り上がっていた。元とは違うのは反論に熱がこもっておらず、討論を嫌う者になっていた。新生・岩丸と露連峰は現生に返された。

 













厄病神のフキ

貧乏神のビンドゥ

死神のメフィ

龍晟と龍櫂

田別細道と細野不四夫

 善田海斗

式神を使うには死者の精神が冥界(ドゥアト)へ入るための呪文「エロエムエッサイム」と執事の判断で式神を選び、動かすものだった。

「荒ぶる神」や「妖怪変化」類の荒御魂・ゲル

人の善悪を監視する和御魂・ギル




坂東祐司警部補

週刊潮旬

霜本警視庁長官

山元与多郎

大池百合子

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る