第61話 信者の脅威

 東京都知事選は、予想通り現役の大池が当選した。二位・三位の得票数を合計しても大池には敵わなかった。

ゲル「良かったな、大池を解放して。それにしても対抗馬の露連峰が三位だとは番狂

   わせだな」

海斗「二位に入った岩丸はネットの力と大池と露連峰への反対票のお陰だが、岩丸の

   躍進は脅威だな」

ゲル「でも、岩丸はそのネットで敵を増産しているな」

海斗「分かっただろ。三人で大池が一番マシだということが」

ゲル「岩丸と露連峰は、人の意見を聞くことがない。自分が常に正しいと思い込む不

   治の病に掛かっていてもう救えない」

海斗「自分しか見えないものは、一瞬のカリスマ性を放つがお里が知れるのも時間の

   問題だ。組織を動かすには協調性が必要だからな」

ゲル「奴らには無理か」

海斗「敵は作っても良き理解者は得られない。信者が増えるのが最悪だ」

ゲル「人間って大変だなぁ」


 その時、ギルが現れた。


ゲル「どうした、浮かない顔をして」

ギル「前米国大統領のカードが撃たれた」

海斗「カードが。それで亡くなったのか、いや、そうだったら撃たれたとは言わず暗

   殺されたと言うだろう。無事だったんだな、よかった」

ギル「あの国はどうなっているんだ。大統領の多くが暗殺か暗殺未遂される。自由の

   国とは話し合いではなく邪魔者を消す自由のこと言うのか」

海斗「暗殺されているのは共和党だけだ。ケネディは民主党だったが考え方が当時は

   共和党に近かったからな」

ゲル「民主党を敵に回せば死が待っているってことか、恐ろしいな」

海斗「恐ろしいのはそんな政党や考え方に洗脳されている民衆だ」

ギル「奴らはなぜ短絡的なんだ」

海斗「思い通りに行かなければ始末する。解決策は思い通りになる利権を貪り喰う

   事。それ以外にはない。金と名誉のためなら何でもする。超えてはならない一

   線も簡単に超える。世間注目さへ浴び持て囃されるなら悪事など眼中にない。

   それが当たり前になり、悪知恵ばかりに精を出す。精を出す内に悪事か否か

   も分別できなくなる。分別できなければ罪悪感もなくなる」

ゲル「俺たちが神仏の指示で動かされているのも、後先考えず思い付きで動き、対処

   法もなく、後に負の影響を齎すのを阻止するためだからな」

海斗「珍しくまともなことを言うじゃないか」

ゲル「五月蠅い」

ギル「スティーブ牧師が三月に予言していたことが現実になったな。カードの頭ギリ

   ギリを銃弾がかすめる。鼓膜を破るが立ち上がる。この狙撃によってカードは

   生まれ変わる。燃え上がるように神のために戦う意志を固める。大統領選挙は

   勝利する。世界的危機が襲うがカードが救うというものだ」

ゲル「魂界は、前回の大統領選に不穏な動きを懸念して狩りだされた。結果は、敗

   北。根深い工作、動員された信者。予想外に多かったからな」

海斗「スティーブ牧師は魂界と関りがあるのか」

ギル「分からない。ただ、神から起きることを告げられたいや見せられたと語ってい

   る」

ゲル「告げられたと言うより漏れてきたというのが正しいだろうな。対応策が成され

   ていないからな」

海斗「そうだな。信者が最も怖い。自分たちの世界が常に正しいと思い込まされる洗

   脳は善悪が判断できないからな。独裁者が蔓延る背景に信者ありだ。岩丸を応

   援している者も彼の発言を精査する手間を掛ければ、机上の空論であり、根拠

   のない意見であることが理解できるはずだ。独裁者は即断即決で歯切れがいい

   から従われやすい。民主主義には段階があり、鋭角な行いも鈍角になり訴える

   力が削がれ、魅力的に感じないのも危険なことだ」

ゲル「俺たちは誰の信者でもない。粛々と動くしかないぜ」

海斗「ああ」






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