第59話 愚行を愚行と思えない輩

 海斗は粛清の効力が見えない苛立ちに思考が混乱し始めていた。そこにギルが現れた。


海斗「どうしたギル」

ギル「ニュースを見ていないな」

海斗「最近、何かと考えることが多くてな」

ギル「都知事選が行われる」

海斗「大池は拘束島にいる。参加できないから終わりだな」

ギル「それでいいのか」

海斗「何が言いたいんだ」

ギル「候補者がやばい。露連峰だ。大池が指示を得ていた前政権の落ち度でチャンス

   があると公金チューチューを大胆に行うために出しゃばってきた」

海斗「露連峰は候補者に上がっていたが中身がカス過ぎて無視した奴だ」

ギル「特定の組織票を持つ、それは脅威だ」

海斗「知名度の違いが票差に現れる。公約や実績など関係ないのがこの国の選挙だか

   らな。確かに脅威だな。拘束予定者が候補者か…見逃せないな」

ギル「どうする、対抗馬がいない現状では最悪もあり得るぞ」


 海斗は、都知事候補者を検索した。確かに知名度から見て露連峰が優位に感じられた。SNSで有名な候補者もいるが顔写真もない状態で一般的支持者を得られるとは思えない。現実には利権絡みは払しょくできない。選挙には組織票の地盤・知名度、肩書の看板・資金力の鞄が必要なのは一般的だ。東京などの影響力のある大都市ならこの武器がなければ如何に崇高な公約を上げても木端微塵に吹き飛ぶ。海斗が思い悩んでいたもやもやをさらにもどかしいものにする決断を迫られていた。


海斗「対抗馬は現職の大池しかいないのか…。仕方がない背に腹は代えられない、大

   池を解放しよう」


 そこへゲルが驚きを隠せず現れた。


ゲル「いいのかぁ、島の秘密がばれるぜ」

海斗「それは、魂界の者に記憶を上書きして貰おう。その際、赤い組織への執着を薄

   めてもらおう。その成果も参考にしたいしな」


 海斗たちに復讐心を燃やす大池を船に乗せた。東京湾に向かう途中、魂界の者が大池に入り込み、記憶の上書きに勤しんでいた。疲労感は隠せないが関連病院に極秘に送り込んだ。目覚めた大池は、医師から過労により倒れられここへ運ばれてきた。記憶障害が見られますが日常生活には影響しないと説明を受けた。納得は行かなかったが公務を行わなければと秘書に連絡を入れ、タクシーで都庁に向かった。行くへ不明については入院治療で事なきを得ていた。これも魂界の時空を歪めた結果だった。魂界は自由に時空を変貌できるわけではない。飽くまでもその者が経験した、経験したはずの時間を辿り、その際に関わる者の接触内容を変え、思い描く方向へ導けるだけで、思い通りになるわけではなかった。

 解放された大池は、水を得た魚のように残りの公務をこなし、再選への道を歩み出していた。そんな折、いまだ立候補の届出のない6月2日午後3時頃、多数の聴衆に対して「この夏七夕に予定されている東京都知事選挙に露連峰は挑戦します。みなさんのご支援どうかよろしくお願いします」などと演説をして、自身のための投票を依頼し、もって、立候補届出前の選挙運動を行った。応援に立った立喧眠種党の江田野前代表は「みんなで露連峰さんを勝たせましょう」と述べた。これらは事前運動である疑いが濃厚だと善意者は騒ぐが、闇金を執拗に追い詰めるマスゴミは息を吐くようにこのことに触れなくなった。

 相手が弱っていると感じた露連峰は、大池との直接討論をマスゴミの会見で要求した。その争点として「大池が大切な自然を壊してまで進める事業など即座に注視すべきだ。私が知事になれば即刻中止にする」と勝ち誇ったように鼻息を荒くして見せた。それに対し、その案件は現在、中断されています。討論の余地なし」と切り返し露連峰は顔面蒼白になった。同じことがすぐ前にもあった。マイナンバーカードについて不具合が生じ、マイナンバーカードの必要性を露連峰が与党を追及した。それに対し与党からマイナンバーカードの導入は立喧眠種党の前身である民主党が行ったこと。導入の必要性は当時党員であった露連峰さんの方が詳しいのではと切り返され、あたふたしたものだ。正にカミツキガメ。視野に入った目立つ話題に下調べもなしに兎に角、噛みつく。知事だけではなく、日直にもさせたくない人物であることが顕わになった。


ゲル「露連峰の人間性が暴露されているな」

海斗「事前公示に募金、公職選挙法違反も何のそのの厚顔ぶり。公約も曖昧で政策

   論争はなし。余りにもくだらない」


 海斗は情けなさと自分の不甲斐なさを強く感じていた。


ゲル「海斗が悩んでいたのはこれか。露連峰を見送っていた原因だな。本人を粛清し

   てもそれを支援する者を粛清しなければ意味をなさないってことだな」

海斗「ああ。結果を改めても原因を残していては新たな不都合な結果を生み出す。大

   量粛清は平穏のない独裁を意味する。善悪を思い込みで歪め洗脳された者の  

   目を覚まさせるのは至難の業だ。今回のように指示する者の愚行を顕わにして

   も結果は変わらないだろう。洗脳の恐ろしさは隣国の国民の思想・思考を見

   ればよくわかる。万国共通のルールで行われるスポーツに於いても例外なく

   愚行は繰り返している。目的のためには手段を選ばない、卑しい奴らだ」

ゲル「大変だなぁ、人間ってやつは」




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る