第48話 「お前に明日は来ない」始動・死神手帳

 山元たちが見張りを開始して五日目の事だった。一層の船がこの島に向かってくるのを監視していた大池が確認した。大池はすぐさま山元の部屋のドアを「来たわよ、来たわよ」と叩いた。「来たか」と山元は部屋を抜け出し、棍棒を手にして木陰に潜んだ。河負も同様に迎え撃つ準備を整えていた。


大池「何かあの船、前とは違う気がするんだけど」


 山元と河負は「ああん」と自ら確認したが違いなど見当たらなかった、というよりそれほど記憶にもなく判別する物がなかった。


山元「気にするな。何艇か持っているんだろ。この島を知っている、それだけで十分

   だろ、さっ、計画通りにすすめるぜ」


 船が島に着いた。いつもなら閉まるはずのドアにロックが掛からないでいた。山元たちはいつもと違うと不安に覆われた。危機感の場で不安は観察眼を目覚めさせる。確かにいつものピエロではない。黒装束に黒のゴーグル。素肌を感じる部分は全くなかった。暗闇に黒のゴーグル?あれで見えるのか?見えるとしたら暗視スコープ。だとしたら気安く動けないと山元は考えていた。よく見ると黒装束の者は、胸も尻も張りがあり滑らかなボディラインをしていた。女か?


黒装束「お前たちが隠れているのは分かっている。そこの物陰に山元、そこに河負、

    大池はその岩陰。武器を捨て出てくれば怪我はさせない。歯向かえば医者の

    居ないこの島で痛みが治まるまで不自由で辛い目に合うがいい。どうする」


 「分かった、分かった、逆らわない」と山元は棍棒を捨てっ両手を挙げて姿を現し掌返しで媚びた。それを合図に河負・大池も現れた。


黒装束「手間は欠けるでない」

山元 「いつものピエロはどうした」

黒装束「別班だ」

大池 「その別班がピエロに変わったってこと」

黒装束「別行動だ」

山元 「その別班が何しに来た」

黒装束「救出に来た、しかし、人員的に一人だ」


 山元の反応は早かった。「俺だ、俺。一番早くここに来た。順番を守るのが日本のルールだ」と我先にと興奮が治まらないでいた。それを聞いた河負けは「日本のルール?それを利用して私腹を肥やすのがか」。大池が「私はここに連れて来られたこと自体何かの間違いだわ、その誤りを正すのが今よ」と声を張り上げた。


黒装束「醜い。救出者を告げる」


 拘束者たちは息をのんで自分の名前を呼ばれるのを待った。


黒装束「平成腐敗組の代表の山元与多郎、前へ」


 山元は歓喜の声を挙げその場で飛び跳ね、河負と大池に「余った食料はやるよ。俺にはもう必要ないからな。伝言ぐらいはしてやるよ」と勝ち誇ったように言い放った。


 黒装束の者は、はしゃぐ山元の腕を掴み船に乗り込まさせた。山元は遠ざかる島に残した二人を卑下するように見つめ高笑いが止まらなかった。


山元 「私を選んだのは正解だ。まぁ色々あったが水に流してやる」


 黒装束の背後で上機嫌な山元。


黒装束「正解か、ならば悔いなしだな。お前に明日は来ない」


 油断していた山元は背後から別の黒装束の者にエーテルを滲み込まされたタオルで鼻口を塞がれた。暫くして山元は気を失った。


黒装束「やっと静かになったな」


 

 

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