第47話 なぜ、私だけ…

 山元が思いついたのは新入りが連れて来られる際、事前に部屋を抜け出して置き、海斗らを襲い、形勢を逆転させようというものだった。しかし問題は海斗らがいつ来るか分からないことだった。分かっていることは夜間に来ると言うこと。そのためには夜間交代でもしながら、その日を待つしかない。そのような忍耐が必要な行動を彼らが取れるはずもなく、それ以前に、担当になることを嫌がり、仕方なくなっても居眠りなど当たり前。そもそも絵にかいた意気込みであるから願いは叶うはずもなかった。それでも、何とか入島順に三日が過ぎ去った。三日目の担当は大池だった。

 穏やかな漆黒な海と剝き出しの星光。さざ波が程よい子守歌となっていた。孤独を満喫できる時間は、不安を持った者には恐怖の時間だった。「お前には明日は来ない」と言われた大池は、それが気になって脳裏から離れないでいた。なぜ、私だけが…。彼らはこの島を脱出できる可能性があるのに…。考えれば考える程、絶望感が募り諦めが高まる。窮鼠猫を嚙むの境地に。ならば死を前にして抵抗することは大池にとって蜘蛛の糸の希望だと思い込むようになっていた。山元と河負は島の生活に慣れたのか明らかに大池との生還への意識に隔たりが見られ始めていた。大池は自分が行くへ不明になっていることの支援者が騒ぐのに一縷の望みを託していた。その胸を山元と河負に伝えた。


山元「私もそう思っていた」

河負「山元さんの失踪は体調不良とだけ伝えられていた。あなたもきっと同じだろう

   な。療養前歴があるからな。山元さんより信憑性はある」

大池「そんなぁ…]


 河負の想像は的中していた。大池、疲労蓄積により公務から離脱、自宅療養。と発表され、それ以上の注目は浴びないでいた。明らかにマスゴミに報じない圧力がかけられているようだった。騒いでいたのは大池が党首を担うセカンド党だけだった。その党でさへ中酷寄りの政策で都民の生活に負担を掛ける大池の政策に反論する者たちにとっては次期党首を見据えた派閥争いが密かに賑わいを見せるだけだった。

 大池は飾り雛。政策に有能さなどないのは周知の事実であり、東京は黙っていても人口が集中し、企業の中枢を確固たるものにしており、地方からの人口流出が問題視されるだけで都政としては流れのままに任せるだけで都政は安泰であることに変わりなかった。政府は大池が再び国政に進出してこないか、させない舵取りだけに動けばよかった。


 一方、海斗側は活動再開に向けて準備を進めていた。

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