第43話 目糞鼻糞を笑う

河負「私たちはなぜここに連れて来られたんだ、知ってるんですか」

山元「そんなの知っているわけないじゃないですか」

河負「考えなかったんですか、時間は嫌なほどあったろうに」

山元「考えて分かるならもう考えてますよ。私は社会の弱者の声を汲み取りこの国を

   変えようと活動しています。批判されることはしていないですよ」

河負「国政と県政の違いはあっても私も県民のために尽力している」

山元「いやいやあなたがやっていたのは国政の邪魔でしょ。沖縄の踊る知事と同じで

   しょ。県民のために何かやったって言えるものはないでしょう。一緒にしない

   で欲しいですね」


 河負は紅潮した顔で山元の身勝手さに怒りが込み上がっていた。


河負「あなたこそ政府交付金を得ようと障害者ビジネスで稼いでいるんでしょ。そん

   なあなたに言われたくない」

山元「政府交付金を受け取るのが何が悪いんですか。正当かつ自由に使える金だ。こ

   んなにおいしい金はない。文句があるなら制度に言えばいい。人間、欲をかけ

   ば失敗する。身の程を知れば、濡れ手に粟だ。あなたは、自然破壊や不確かな

   未来の不安を駄々っ子のようにぶち上げ国政を邪魔している。そこにはあなた

   が侵透している中酷依存に静岡県の有力な人物同氏の権力争いを利用して、組

   織票でも得たいのが本音でしょう」


 河負は図星を突かれて鬼の形相で山元を睨みつけた。目糞鼻糞を笑うの争いだ。山元は小心者。形相のヤバさに冷静さを取り戻そうと大きく息を吐いた。


山元「この島には私たちしかいない。言い争いをしてる場合じゃない。今話すべきこ

   とはここでどう生きるかだ」


 河負は山元の急変に戸惑いながら現実を直視した。


河負「そうだな。でも食料はあるんだろ」


 山元はついて来いと言うように首を動かし、河負を食糧庫に連れて行った。


山元「このように私が来た時から一ヶ月分用意されている。インスタントだがな。こ

   っちが私でそっちがあんたの分だ。残りはほぼ同じだ。食料が尽きるまであと

   二・三週間だ」

河負「そのあとはどうなるんだ」

山元「考えたくもない。奴らは自給自足するんだなと言っていた」

河負「自給自足って…。あなたが来てからその目途は立っているのか」

山元「立つわけない」

河負「何をしていたんだ!言うことは一人前でも何もできない、それがあんただ」


 山元はムカッとしたが不毛な言い争いの再開を避けるためぐっと堪えた。


山元「言ったが言い争いをしている場合じゃない。ここは力を合わせるべきだ」


 河負も山元の意見に賛同せざるを得なかった。


河負「この島で過ごした問題点は」

山元「食べられそうなものはない、と言うか何が食べられるか分からない。急務なの

   は火だ。ここにある食品は火がなければ食べにくい。火のおこし方を知らない

   か」

河負「木を擦り合わせる方法しか知らない」

山元「それなら私もやったが上手くいかなかった。火がなければ水に浸したカップ麺

   で生き延びるしかない。魚の取り方も分からない。採っても焼き魚にはほぼ遠

   いですがね」


 河負は自分のことを棚上げし山元の不甲斐なさを嘆いていた。  

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