第41話 負け犬の遠吠え

 眠らされた河負知事は潮風に目覚めた。手と足は拘束されていた。「何をするんだ放せ」と河負知事が言うのと同時に口と鼻に布を当てられ再び眠りについた。海斗一行は高速船で秘密の島へと向かっていた。


ゲル「なぁ海斗、こいつだろ親中野郎って。でも、この間、リニアの問題で賛成だと

   か言ってたんじゃなかったか」

海斗「私が犯人ですと言う奴がいたら楽だな」

ゲル「う~ん、じゃ、周りは敵ばかりで珍宝が縮み上がって上辺だけ賛成したって事

   か」

海斗「そうだ。賛成と言いながら工事を否定し続けた。本人も不味いと思っているん

   だろう。まぁ、自己弁護のための言い訳が見え見えだがな」

ゲル「ひでぇ奴だな」


 鉛のように暗い海は怒りを表すように波を荒げて見せた。河負知事が目が覚めたのは船が着岸した時だった。


河負「ここはどこだ、私を誰だと思っているんだ。県民の代表だぞ」


 海斗はキャシャーンのような顎の下が見えるヘルメットを被っていた。


海斗「ようこそ、新天地に。ここがあなたの更生の場です」

河負「更生だと、何を言っているんだ」


 河負が騒ぐのに動じない黒装束の男たちは両腕を拘束し、収容所に向かった。海斗はリモコンで先住者の山元与多郎の扉を閉めた。その音で山元は扉に駆け寄り、出してくれ、助けてくれと叫んでいた。その声に河負は怯えが頂点に達した。有無を言わせず収容所に放り込まれた。海斗は河負の扉に近づき、この島のルールは先住者の隣の者に聞け、と言うと山元のもとに行き、新人の分を補充しておく。それに自給自足が上手くいっていないようだから、ジャガイモ、サツマイモ、ニンジンなどこの島でも育てられる種を食糧庫に置いていくと伝えた。

 孤独の恐怖を味わっていた山元は必死で許しを請う叫びを上げていた。海斗にその訴えは届くはずもなかった。ふと思い立った海斗は河負の部屋の前に立ち新聞受けの窓のような小窓を開け、「この本いるか」と声を掛けた。そこには河負の愛読書が手にされていた。河負が目視したのを確認した海斗は、「こんなものがあるから幻想から覚めないんだ」と言うとポケットからライターを取り出し、本に火を点けた。「やめろ」と河負は叫んだが本は勢いよく燃え尽きていく。「ああああ」と河負は崩れ落ちた。その様子を山元も小窓から見ていた。山元の視野には本が燃やされる場面だけだった。落胆し叫ぶ河負に反して山元は違った。「おい、そのライターを寄こせ、置いていけ」だった。海斗は山元がいまだに火を起こせずにいるのを理解していた。「日頃、偉そうに上から目線の発言をする割には火も起こせないのか。縄文時代から

やり直した方がいいみたいだな」と海斗は突き放した。「待て、待て」と山元の唾が小窓から飛び散るように静かな島に響いていた。





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