第26話 現場の意地と誇り

海斗「この事件、闇が深そうだな。安楽椅子探偵じゃ、情報が

   絡み過ぎて、点が線にならない案件だな」

ギル「絡んでいる?正しくは事実がたくさんあるだけだろ。本当

   に起きた事は変わらない。しかし、餓鬼が絡むと当事者の

   記憶の改竄、消去が行われるからな。それを見極める目が

   必要になってくる。そうだ式神の目ってのあるが欲しい

   か?お前が愛読する本でいう処の死神の目ってやつだ」

海斗「遠慮しておくよ。長生きしたいんでね」

ギル「つまんねぇな~」

海斗「ギル、魂界の者に捜査の中枢にいた人物を探し出し、取り

   組んでくれるように頼みたいんだが」

ギル「あいよ」


 ギルはすぐさま魂界の龍晟と龍櫂とコンタクトを取った。すると龍晟が既に目ぼしい者を見つけ出しアタックしているが拒む意志が強く、上手くいっていないと伝えてきた。それをギルは海斗に伝えた。


海斗「もう動いていたか。それは誰だ」

ギル「確か捜査一課殺人係の責任者だったかなぁ。もう、定年退

   職して現場から離れているけどな。守秘義務っていうのか

   もう過ぎた事だと頑なに応じないでいるみたいだぜ」

海斗「もう過ぎた事…。それって煮え切っていないってことじゃ

   ないか。真実が語られていないって証じゃないか」

ギル「そうなのか。お前、相手の感情が読めるのか」

海斗「言ってなかったか、私は魂界の者と契約を交わした。だか

   ら、私にも憑依してるんだ。だがまだ、日が浅く、上手く

   コミュニケーションが取れていないんだ」

ギル「もうお前もこっち側の人間ってことか」

海斗「早くそうなりたいものだ」

ギル「もう充分なってるぜ」

海斗「あっ!」

ギル「どうした。何かひらめいたようだな」

海斗「その者は話したがっているというか憤怒を感じる」


 その時、人の善悪を監視する和御魂・ゲルが現れた。


ゲル「よくわかったな。その通りだ。周りへの迷惑、気遣いから

   口籠っている」

海斗「キャリアじゃなく、叩き上げか」

ゲル「そうだ。最も刑事らしい男だ」

海斗「じゃぁ、キャリアの人間に自分たちのプライドを踏みにじ

   らせてみてはどうだ」

ゲル「それならいい人物がいる、警視庁長官の霜本だ」

海斗「ふん、現場の人間は煮え切っていないってことだな」

ゲル「記者会見でこの事件のことを聞かれ、捨て鉢に警視庁が結

   論を出したことだからっていっていた」

海斗「警察が思うように動けない憤怒を感じる。なら、その霜本

   警察庁長官の言葉を我関せずにトーンを変えて、その刑事

   に摺り込めないか」

ゲル「ああ、やってみる」


 ゲルはすぐさま刑事の枕元に立ち、現場に無関心な上司のイメージをその刑事に刷り込んだ。

 刑事は跳び起きた。寝巻は汗でびっしょり濡れていた。熱いシャワーを浴びている内に余計な感情が洗い流され、無念さだけが沸き上がって来た。「私が殺人事件として関わってそうじゃなかったことなどない。自殺だって、馬鹿な!あれは間違いなく殺人事件だ。大物政治家の思い通りにして堪るか!現場は命がけで事件にむきあっているのに、それを他人事のように固唾けやがって!もう、許さない。俺は失う物も組織の人間でもない。何もかも表に出してやる。覚悟は決まった」


 記者は、引っ越して行くへが分からなくなった坂東警部補を探していた。電話も無視されていた。本人に会って何としても話を聞かなければ。しかし、手掛かりが掴めず、ダメもとで電話を掛けた。記者は驚いた。断られると思っていたものがあっさりひっくり返された。


 刑事はしつこく食い下がる記者に何もかもぶちまけた。現場で働く者の無念を晴らすが如くに。

 五日間18時間の長時間のインタビューの内容が活字となり、輪転機をけたたましく騒がせた。










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