第15話 死神手帳05-仲間を裏切り死期洋々

寄らば大樹の陰で意気揚々

仲間を裏切り死期洋々

目線、視線。死線、彷徨い心臓バクバク

夢見りゃ悪夢、起きても悪夢

大樹を頼れば、あんた誰?

未来が怖い、電話が恐い

気軽な近道、落とし穴

落ちて、気づく闇の深さ

急我は回れ

人生、地道が一番で御座います


 県議連の男気を高倉大臣は感じ取っていた。高倉は選挙対策本部を敵に回すのではなく「推薦の判断基準の明確化」という問題点を提起し、暗躍した者たちに逃げ道を残し幕引きの道を用意して見せた。龍晟と龍櫂は、裏切り者の田別細道と細野不四夫、両議員に耳小骨に「梯子を外されたぞ。次回選挙に推薦・公認は出さないぞ」と呟いて両氏を追い込んだ。

 

 魂界には魂徒以外にも修行を行う修徒が幾人もいた。彼らは予備軍のように魂徒になるために鍛錬を積んでいた。今回彼らに大きなチャンスが訪れた。自由民党の中で今回の選挙を見て危機感と不信感を感じて動揺する議員たちに憑依する許可が許された。内部告発・親中議員のような腐った蜜柑排除に動けば特進が許されたことを意味していた。魂界の見習いである修徒は我先に憑依する人物探し疾走した。

 憑依先は国政に限らず地方議員にも及んだ。龍厳には憑依した人物の情報が一挙に寄せられてくる。同時に憑依した者には、今の体制では自らが危なくなるという言霊を植え付けていった。自由民党の議員に目に見えない不安が募り始めていた。

 欲の皮が張った者。秘密を握られている者。子飼いの犬に成り下がった者などなど、一筋縄で憑依できない者のオンパレードに修徒は孤軍奮闘していた。その修徒に追い風が吹きだした。特性の死神手帳を手にした善田が動き始めた。


 死神は、死神手帳に書かれた人物の本人確認を行い、書かれている名前にタップするだけ。会話もなければリストに上がった者の相談を受ける事もない。が中には相談にのる者もいる。禁じられてはいない。ただ、死に直面した者と関わるのが厄介なだけ。相談に乗ってリストの順番を変えることなど出来なかった。単調な仕事だった。その単調さから稀にサボる不届き者もいた。その者は罰せられ陰陽師に使われる式神と移動させられた。

 神社神道の系譜として思想や儀式が継承されている。神主や巫女は、神降ろしによって神を呼び出し憑依させることを「神楽」や「祈祷」というが、これは和御魂の神霊であり、式神は鬼神となっている。式神は鬼神であり和御魂の神霊だけではなく、荒御魂の神霊、いわゆる「荒ぶる神」や「妖怪変化」の類である位の低い神を呼び出し、使役した。また、人の善悪を監視するということは、人の霊魂の和御魂と荒御魂の状態の変化を掌握するもので、式神は和御魂と荒御魂のどちらかの神霊を、使役するのに係わる者であり自ら動くことはない。人間に使われる式神は、死神より格下とされた。

 魂界の者も高官になれば式神と同じ能力を使えた。式神との違はその能力を自分の意志で使える事だ。

 死神手帳は通常、死神が名前をタップし閉じた瞬間に施行される。開けたままなら停止状態だ。この時点で手帳を焼けばその手帳に乗っていたリストは一旦破棄され、書かれた死期はその時点では消滅する。奇跡の生還と九死に一生という形で人間界で騒がれる場合がある。

 タップして1分以内に手帳を閉じなければならなかった。邪鬼や餓鬼に見つかる危険性があるための安全装置のようなものだった。


 任務遂行できなかった死神は審議され、処罰対象になる。


 人間が手にした場合、紙面を表紙から切り離した瞬間、ただの紙となり消え去るから切れ端を持ちある事は出来ない。これも拾得者の乱用を防ぐものだった。

 特性の死神手帳は、人間が手にした瞬間、死神ではなく式神の管理下に置かれる。所有者の意志により式神を使い死期・死因・時間を調整できるが一度記載したものは変更は効かない。ただ、開けたままでは効力は発揮しない。書いたものを破棄したい場合は開けたまま手帳を燃やせばいい。同時に人間の記憶も所有した期間分喪失する。行動を共にした式神は人間臭を帯び、邪鬼や餓鬼に見つかり易く災いに晒される確率は格段に上がる危険性があるから暗躍した式神は、神界によって活動後浄化されることが約束されていた。


 善田海斗は夢の中に現れた龍厳に死神手帳の扱い方の初歩を教わった。詳しくは聞けなかった。愛猫のケビンに起されたからだった。海斗は、試運転宜しく、死神手帳で式神を使った。式神を使うには死者の精神が冥界(ドゥアト)へ入るための呪文「エロエムエッサイム」と唱えて呼びび出し、やりたいことを伝える。式神は式神の判断で担当を決め動く。このシステムこそが神界・冥界と魂界が使用者を管理するもので、使用者の独自の判断だけでは効力を発揮させない暴走防止の物だった。

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