第14話 死神手帳04-後悔への航海

幽霊の正体見たり枯れ尾花

妄想、詭弁、言い訳

欲が先走る言論は、人の心を射貫けない

引っ張る脚はないか~、儲け話はないか~

小心者は、寄らば大樹の陰に

寄りかかった大樹は小心者は糞

うんうん頷き、糞になる

糞になれば、捨てられるだけ

後悔先に絶たず

落日への航海に向かう小心者に

「お元気で~」と見送ってやりましょう




 龍晟と龍櫂は毎夜だけでなく、居眠り休眠、休息の僅かな時間を使い入り込んでいた。目が覚めているかは関係がなかった。思考が安らぐ瞬間があれば入り込めた。

 龍晟と龍櫂は、田別と細野両氏の耳小骨に「見られているぞ、バレた」と言霊を送り込んでいた。小心者は怯えに耐えられない。周囲を気にし過ぎ周りに怪しまれる。


 田別細道と細野不四夫は、選挙事務所近くを単独行動をしていたところ後援者に発見され声を掛けられた。両氏は密偵行為がいつバレるか針の筵の上にいた。声を掛けてきた者の目を見て「バレた」と悟り、慌てて車に乗り込み逃走。逃げ場がない。自宅には話を聞きたがる後援者がいた。心休まる場所は車内だけ。信号待ちで並んだ横の車にも怯えを隠さないでいた。

 田別と細野は仲介者を介して毛木幹事長に助けを求めようと連絡するが「忙しい」とけんもほろろに。両氏は指名手配のように県外に行き宿泊施設の一室の片隅で膝を抱えて震えていた。

 龍晟と龍櫂は畳掛けるように耳小骨に「裏切られる。切られる」と囁いていた。


 仁は「こんなことをすれば最悪の場面もあるのでは」との問いに龍厳は表情を一寸も崩さず「でしょうな。自業自得とは本来、このようなものよ」とさらりと言い放った。仁は魂界の掟を思い出していた。最大の罪は裏切り。まさに両氏の行いは龍厳を激情させても温情など微塵も引き出すものにはならなかった。さらりと言い放つところに魂界の者のクールさを感じていた。


 一方、自由民党の思惑も複雑化していた。当初は高倉大臣の求心力を弱める程度で在りあわよくば閑職に追い込めると目論んでいた。悪い奴らには独自の考えがある。自分たちの論理が常に正しいと疑いもせず思い込めることだ。常人には理解しがたいことだ。それを魂界の者は熟知し、洗脳された者は、魂も身も滅ぼし生まれ変わらない限り更生などしないと経験上確信していた。

 犯罪者が犯罪を繰り返す。環境が大事だがその環境を得る努力をする根気が彼らにはない。自制心は、罪悪感への後悔が低くなるたびに効かなくなる。

 自由民党選挙対策本部には組長の席を逃した現実だけが残る。その責任を高倉大臣に被せて幕引きにする目録は、欲の皮に覆われ周りが見えず本当の責任が選挙対策本部にあることが見えないでいた。党本部の林川は気弱な人間で老体候補者の陳情に適切な対応が出来なかった。党本部を管理するのが幹事長だ。

 毛木幹事長は高倉大臣に汚名を着させ逃げ切る算段だったが自分の不備、求心力にも影響がでるのを感じられないでいた。そこへ敗因は高倉大臣だと声を上げる前に選挙該当区の県議連が立ち上がった。彼らは高倉大臣の責任を問われる画策に憤慨していた。そこで重鎮の議員が「俺の責任だ」と「高倉の首を取るなら俺の首を取れ!」と名乗り出た。それも一人や二人ではなかった。その裏では裏切った議員たちはマスゴミが喜びそうな話題を提供していた。それが自由民党の声だと認知されると自由民党への信頼が没落することに自由民党の議員が気づき始めた。

 声を上げた大物議員の影響力は大きいものがあった。毛木幹事長と煮貝元幹事長も無視できないでいた。我を通せば、党内を二分・三分しそうな勢いが起きた。

 県議連の自分の首を差し出すという男気のある議員たちの喧嘩にも似た騒動は自由民党の他の議員の注目を浴びた。議員にとって選挙は命。その命を自分たちの思惑で消し去った本部への不信感は澱んだうねりを産み始めた。

 高倉大臣は状況を見て先手を打った。誰の眼にも今回の敗戦原因は候補者を一本化しなかったことは明らかだ。自由民党の得た投票数を足せば勝っていた。自由民党の有権者の中には不甲斐ない体制に異論を呈するため一新の会に投票した者がいた。自由民党の有権者の26%もの票が流れていた。一本化していれば圧勝していた。26%有権者は本来支持する自由民党への非難行動だった。愛想を突かされれば戻ってこない票でもあった。単純な足し算でないことは選挙を経験した議員たちには深刻な判断ミスと映っていた。


仁 「可笑しな輩は後先考えず動き、馬鹿を見るか」

龍厳「更生など無理なのが分かるだろう。腐った蜜柑は排除する

   ことよ。それが組織の在り方だ。情に流され寛容に扱えば

   腐る蜜柑が増えるだけだ。願わくば根幹の毛木、煮貝など

   腐った議員を炙り出し焼却しなければならんのよ」

仁 「自業自得の意味が分かったわ。うん?煮貝って亡くなった

   はずでは?」

龍厳「やっと気づかれたかな。我らの課は何かな」

仁 「死霊、課…」

龍厳「恨み辛みの死霊となり毛木に憑いているのよ。周りには邪

   鬼も屯しておるわ」

仁 「それは厄介なことに」

龍厳「それが我らの役目かと存じております」









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