第13話 死神手帳03-奢りに潜む油断

小心者は、嘘を吐く。

吐くことで嘘を隠す。

悪ほど、警戒心が強い。

バレないかの怯えから。

周りを見えても自分は見えない。

油断ではなく、奢り。

奢りは思考を破綻させる。

善悪の基準は損得。

公金チューチューはお手の元。

心が冷めても懐が温まればそれでいい。

はてさて、今宵はどんな小者が蔓延るか。


 地区組長戦は一新の党が勝利した。有権者である県民の多くが大阪を勤務地としていた。その中で地元愛を訴えた新人の平紀省吾は健闘した。自由民党が一本化していたならば軍配の向きは変わっていたに違いない。現実にたらればは禁物。健闘の裏には多くの民のSNSでの横のつながりがあった。SNSの影響力と「信頼」の絆が目立った選挙でもあった。

 自由民党の敗北の責任は高倉大臣へと向けられた。しかし、そう簡単にはいかなかった。大阪で三議席の選挙区で一新の会が2議席をあっさりと奪った。残り一議席を自由民党の分裂選挙となっていた。ネット無縁の老体が当選した。その背後にSNS上での支援呼びかけに地域有権者を動かしたものだったと言っても過言ではなかった。澱んだ川に希望の光が差していた。

 国民は「信頼」の中の真実に目覚めた事だと仁と龍厳たちは微笑ましく見ていた。


 龍厳は人選を進めていた。考えを同じくする信じられるインフルエンサーを選んだ。接触して好意的な了解を得た。それを経て唯一の不安であった使用者への負担を確認するため仁を経由し閻魔大王に神界への交渉を願い出た。大王は快くその歎願を神界の窓口である雷界に申し出ると意外な返答が帰って来た。それは「我関せず。認可されていない死神手帳などあり得ない。そんな存在も認知していない。認知されないものを使ったとして我らは何を裁くのか」と言われた。大王は笑顔で仁に雷界の判断を伝えた。側に居た龍厳は天に向けて合掌し頭を垂れた。


仁 「龍厳の思惑通りか」

龍厳「有難い事です」

仁 「使用者は決まったか」

龍厳「はい。命の危険性を理解しての承諾です」

仁 「では、最悪がないことを伝えてやれ」

龍厳「それは伝えないでおきましょう」

仁 「何故だ?」

龍厳「命がけというに相応しい任務。逃げ道を用意すれば如何な

   る判断に障害が起こるやも知れませんからな」

仁 「そなたは本当に過酷だな」

龍厳「憑依するはその者の人生を授かる事。安易な物ではない」

仁 「確かに、すまん」


 龍厳が、選んだ人間はSNSのインフルエンサーであるアカウント@seigi通の善田海斗だった。龍厳は死神手帳のルールを善田に伝えた。その時だった、メモが浮き上がった。本来、手帳を使うには動いている顔認識や声が必要だった。メモには人名と顔写真だけ明記すればよし、と浮かび上がった。龍厳はそのメモを見て安易な過程に暴れるだけ暴れよ、と受け取った。同時にこれがバーチャルの世界か、と感じた。その事は善田の行動を過激化させたり、個人的な私用目的に使いかねない懸念から伝えないでいた。

 

 仁と龍厳は、厄病神のフキと貧乏神のビンドゥの行動に興味を示した。フキとビンドゥは、自由民党の毛木幹事長と老体煮貝元幹事長の指示により平紀省吾候補の妨害を選挙事務所内部から行った衆議院議員・田別細道と細野不四夫の周辺に纏わりつき始めた。そこに魂界の魂徒も龍厳の指令で参戦していた。魂徒は田別細道と細野不四夫の両名の夢の中に入り込み、影の声を吹き込んだ。基本的に魂徒は人間の同意を得て切磋琢磨し、成長させるのが本来だが今回は特例の命を受けていた。冥界の許可を得て負の世界に邁進させる誘導を任務として許されていた。魂界の憑依は諸刃の剣。よって独裁を禁じられていた。負の世界に導くのは用意で愉快なもの。人の不幸は蜜の味。担当する魂徒には常に神界の裁き所である雷界の監視の目が光っていた。

 任務遂行の後、浄化の際の落ち度を見過ごさないための要件として用いられていた。木乃伊取りが木乃伊になる、を防ぐためでもあった。

 毛木幹事長と老体煮貝元幹事長ら親中議員により地区長選挙の責任を取らせ高倉大臣を潰すため送られた工作員を担った田別細道と細野不四夫は、善意の平紀を支援する後援者に悪事を見破られる。向かわされた魂徒は龍厳の傘下の龍晟りゅうせい龍櫂りゅうかいだった。田別細道と細野不四夫に悪夢を刷り込むことに勤しんだ。

 仁は、龍厳の流す魂徒の行動履歴を見ていた。龍晟と龍櫂は田別と細野の夢に入り込み以下のような近未来を見せつけていた。


 鳴かず飛ばずの議員。党公認のバックアップだけが命綱。そんな議員に有力政治家が近づく。幹事長と元幹事長だ。田別と細野は歓喜し即答で要望に応じる。彼らにすれば安倍川元総理の嘆かわしい事件の後、準備が遅れしかも無名の新人候補者の支援は彼らにとって負の遺産。負け戦必死の中、負ける事で株を挙げるチャンスが巡ってきたからだ。後援者が団体票を得られる企業や組合にお願いの電話をした後、打ち消す電話を掛ける。当然、不審に思う有権者からの連絡が入る。後援会は仲間を疑う雰囲気は全くなかったが現実を直視せざるを得なかった。疑いながらも厳しい選挙区の中、不協和音を持ち込むことはできない。そんな中、決起集会が開かれた。小者は罪悪感を消し去るように小馬鹿にした思いからひっそりと出席を拒んだ。それが命取りとなる。

 この場に至って姿を現さない人物に疑惑の目が向けられた。


 




 


 

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