第11話 死神手帳01-恨み、辛みが蠢く

 真っ当な世の中はどこへやら。

 恨み、辛みが蠢く。

 涼しい顔をして悪事のし放題。

 それじゃ、お天道様も苦虫潰す。

 天に向かって唾を吐けば、自分に災難、降りかかる。

 二倍、三倍、いやいや、死倍。

 思い知らせて、悪党どもを震え上がらせようぞ。

 堪忍袋の緒が切れる。

 甘い汁を次々に絶って、ひもじく逝くがいい。

 くれぐれも、お体、お大事に。

 自分に気を使う暇あらば、他人に仕え。

 馬に念仏ですかねぇ~。

 おっと、後戻りはできませんよ。

 今更、反省、改心など遅い遅い。

 しっかり、正してやりましょう。

 それが、正義の道ですから。


 とんでもない情報が閻魔大王の冥界に三厄神から届けられた。その情報はすぐさま魂界の龍厳と共有された。


仁 「これを見よ、龍厳」


 龍厳の目前に映像が流れ始めた。それを見ながら仁が補足を行った。


龍厳「これは…」


 流された映像の説明が流れた。自由民党の煮貝元幹事長が白目を剝き、口から泡を吹いて倒れている映像だ。死因は心筋梗塞だった。衝撃の映像から、巻き戻しのように時間が急速に遡りある点で静止し、再生され始めた。

 死神のメフィが映像に合わせて補足説明をナレーターのように始めた。ある死神があろうことか人間界の事に干渉し憤りのあまり死神手帳を人間界に落としてしまった。その出来事とは、幼児を拉致し弄び、バラバラにして親に送り付けるというものだった。逮捕され裁判に掛けられても責任能力のなさで無罪。病院送りになるが生き延びる。その憤怒からだった。感情的になってしまったその死神は死神手帳を人間界に落としてしまった。それを人間に拾われ使われてしまい、その死神ゾフィは粉塵と化した。

 人間界に「デスノート」という作品がある。その作家が見た映像と酷似していた。違うのはルールだった。死神手帳は死者のリストと優先順次が書かれたものだった。それが人間の手に渡ってしまった。手帳に書かれた文字は人間には見えない只のノート状態だった。拾った者は、是芳明久。勤めていた会社の製品を中酷企業に製造方法を盗まれ廉価な製品を売られ、倒産し失業した。彼は中酷企業とそれを誘致した政治家を恨み、腹いせでその手帳にその者の名前を書いた。

 人間には見えない文字の上から文字を是芳は日本を腐らせる憎っき男の名を書いた。それが煮貝元幹事長の名前だった。それから数時間後に「煮貝元幹事長、心筋梗塞で議員会館で死す」の臨時ニュースが流れた。是芳は驚いた。自分が書いた人物が亡くなった。是芳が書いた手帳の場所は、同じ時間に死ぬ予定の者の名前の上だった。本来、死ぬはずだった者は煮貝の本来の生きる期間を手に入れた。

 この手帳を始めて拾った者は是芳ではなかった。山下敦だった。山下の母親は豚糞教団に献金し、山下の人生を崩壊させた。山下にはフキという厄病神が憑いていた。それを嗅ぎつけた餓鬼が山下を喰らった。フキは焦った。山下は死神手帳を持っている。餓鬼に使われたら、予定外の事態が発生する。フキは多彩な能力を持つ餓鬼に太刀打ちできなかった。フキは神界に報告し、対応策を願った。その間に山下は、教組を狙うが会う事どころか居場所もつかめないもどかしさにイライラを募らせていた。そこへ餓鬼は独りの政治家が支援しているような映像を見せた。その映像は握手会に集まる者に握手する単なるイベントのようなものだった。それを餓鬼はこいつが支援して教団は大きくなったと嘘を浮き込んだ。山下の標的はその男に変わった。その男が安倍川総理だった。餓鬼に洗脳された山下は自家製の銃で安倍川を葬った。


 安倍川の無念に満ちた魂と餓鬼の手口とその影響力を削いだことに閻魔大王の怒りを沸騰させた。米国でも同じことが起こっていた。魂界も再生に尽力している。しかし、亡くなれば元の木阿弥。閻魔大王は感情的になり憤慨から掟を破った。神界から閻魔大王は訓告を授かった。本来なら感情で動いたとして免職の重罪だが、下され判決は犯した罪に比べて軽微だった。それが全てを物語っていた。

 閻魔大王は、山下を喰らった餓鬼にこれでもかと言う程の悲哀を味合わせた。その苦痛から餓鬼は退散したがその時、死神手帳が神風に浚われた。神風はその場から死神手帳を移動させ、餓鬼の手の及ばぬ処へと運んだ。

 神界・冥界は人間界に直接、手を下せないでいた。人間界に起きる事は人間界で解決させる、それが掟だった。

 吹き飛ばされた死神手帳を拾ったのが是芳だった。是芳は偶然にも人間が死神手帳を使える要素を満たす人物を選んでいた。その条件とは千人以上の支持を得ている者、動く顔の認識、声だった。是芳は手に入れた手帳の効果を確認するため身近な者に試してみたが効果はなかった。「なんだ、偶然だったのか」。是芳は考えた政治家ならいいのか?なら、悪代官の毛木幹事長はどうだ。是芳は躊躇わず名前を書いた。しかし、悪代官らしく顔や声をテレビから得る事が出来なかった。ネットで調べてみたがネットのようにいつでも見られるものは駄目なようだった。

 是芳は一般人に使った。そのツケが回って来た。それから体調を崩した。微熱とゼイゼイと肺を抉るような咳が続き、仕事など出来る状態ではなかった。失業保険も止まり生活費が激減していく。死神手帳は本棚にしまったままだった。是芳は死神手帳を一般人に使った所を餓鬼の太鼓持ちの邪鬼に見つかり憑りつかれていた。死神手帳と邪鬼の不釣り合いな波動に導かれ、死神のメフィを引き寄せた。メフィは邪鬼を払いのけ駆除し、死神手帳を奪い返そうとしたが一度人間が手にした物は怨念・邪念が纏わりつき、手にすることが出来なかった。そこへ貧乏神のビンドゥが「お困りのようだな」と現れた。そして既に憑りついていた厄病神の隗喪も現れた。

 是芳は三厄神に魅入られていたが彼らは是芳に手出しできなかった。三厄神は事の次第を神界の裁定所である雷界に相談していた。それから一ヶ月後、是芳はテレビをつけたまま餓死した状態で発見された。電気もガスも止まっていたがテレビのスイッチは入っていた痕跡があった。

 是芳の書いた身元保証人には連絡がつかず、仕方なく大家は遺品整理を行い、死神手帳は一般ゴミとして処理されたが、処理場に向かう人気のない農道で死神手帳は動き出し、袋を破り農道に落ちた。雨が降って来た。死神手帳に是芳がインクで書いた毛木幹事長の名前は滲んでぼやけた。そこへ雷鳴と共に雷光が鋭く突き刺さった。死神手帳は濡れているにも関わらず勢いよく青く燃え、消滅した。

 人間が一度手にした死神手帳は燃やすしかその効力を失わさせることが出来なかった。それを雷界が成し遂げてみせた。ただ、気掛かりなことがあった。是芳が書いた名前の結末だった。是芳は死に際で微かな意識の中でテレビから毛木の動く顔と声を聴いていた。しかし、毛木は何事もなく裏で日本を食い物にし、邪魔な者を卑劣な手を使い追いやろうと暗躍していた。そう、死神手帳の効力を発揮させるためにはもうひとつ手順があった。それは「この野郎!」「思い知れ!」とか「他人の苦しみを知れ!」などの念の籠った恨み言だった。それを発していなかったのだ。

 冥界の仁と魂界の龍厳は何故、死神手帳が効力を発揮しないか発揮した時と今回のようにしない違いを検証し、その謎に辿り着いた。龍厳はあることを思いついた。是芳と関わった三厄神にある残留思念を利用できないかと。仁もそれに興味を持った。

 死神のメフィが言っていた。名前を書かれた者はその意志を引き継ぐ者が現れれば、死神手帳が消え去っても復刻すると。仁と龍厳は核融合の発見と同じ作業に取り組んだ。達成された記録はあるが方法が記されていなかった。あくなき研究・模索が始まった。「待ってろ!。日の本を腐敗させる鬼退治だ」と。

 そこへ冥界に差出人不明の木箱が届いた。気づいたのは義だった。義はすぐさま仁に届けた。木箱の帯を解き蓋を開けるとそこにあったのは…。仁は度肝を抜かれた。


 

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