第10話 戦浪の餌食

 雉も鳴かずば撃たれまい

 目立ちたい、目立ちたい、話させろ 

 鳴かずば自分を見失う

 我慢、我慢、我慢と言われても

 忍耐なんて理解できない

 喉元過ぎれば熱さを忘れる

 少しならいいじゃん、これくらいならいいじゃん

 一滴、一滴の雨が洪水に導くことも分からず

 口を開けば、ボロがでる

 黙っていれば落ち着かない

 軽薄短小、遇者、グシャグシャ

 メッキが剥がれて本性現す


 可笑しな輩には特徴がある。「結託」だ。砂糖に群がる蟻のように「美味い話」に便乗してくる。只々、正義の覆面を被り目立つ。支援者が現れれば被害者面で大袈裟に自己主張してみせる。「惨めな者の代表だ。惨めにしたのはお前らだ」と。被害者ぶりで相手の「優しさ」に付け入る。自我と自己の欲望しかない。論理的な指針はない。相手が跪く姿が見れればいいだけだ。

 欲望に群れる「結託」の最大の弱みは「一蓮托生」だ。軽薄なその場凌ぎの欲は、一旦破綻すると収束がつかなくなる。元々が根拠が脆弱だから突かれれば自己弁護に終始し、全体の論理を破綻させる。一度、破綻の傾向が見られれば「欲の結託」は、それぞれの自己保身によって「我、関せず」に変換され、粉砕する。これが「欲の結託」の末路だ。


仁 「高倉と言えばセキュリティクリアランスを推進する中心的

   な人物だな。その者を襲うということは」

龍厳「お察しの通り。日本語で適格性評価と言う。機密・重大な

   情報・知識を共有する者の身元調べを意味する」

仁 「成程、身許捜査をされれば拙い輩が危機を感じての事か」

龍厳「情報を流してうまい汁を吸う輩とそれを指示する者には厄

   介な品物」

仁 「不適格とされればその人物や企業は大慌てか」

龍厳「そんな甘いものにはしないわ高倉は」

仁 「と言うと」

龍厳「適格性評価の先にはスパイ防止法がある。米国のそれと同

   調させれば怪しげな輩を逮捕できる。親中議員の動きを鈍

   くさせるのに効果的かと」

仁 「悪い奴ほどよく眠ると言うではないか」

龍厳「なら、好都合でしょう。悪夢で目を覚まさせてやれば」

仁 「それは愉快だ」

龍厳「適格性評価を入れた経済安全保障推進法を嫌う者は多い」

仁 「それほど悪代官との付き合いを手放したくない者がいるっ

   てことか」

龍厳「そうですな。密偵に自由に動かれては信頼度はない」

仁 「高倉を守る事は、敵味方の陣営の可笑しな輩を炙り出すと

   共に足元を掬うきっかけを見出すものか」

龍厳「御明察。それが今回の偽情報での騒ぎですよ」

仁 「敵味方か…。裏で繋がる者を馬鹿を躍らせ、炙り出すか」

龍厳「現に大東に小遣いを渡して手懐けている中心人物を釣り上

   げられるよう命じております」

仁 「そう願いたい。山で静かに過ごす神々から最近、苦情が舞

   い込んでいるからな」

龍厳「太陽神の恵みを断りもなく使う愚かな破壊者の事ですな」

仁 「ああ」

龍厳「その窓口にいるのが中心人物の一人ですよ」

仁 「一蓮托生とはそのことか」

龍厳「高倉の敵とも言える甲野よ。その甲野家が甘い汁の窓口の

   ひとつになっている。悪を沈めるのは資金源を断つのも重

   要ですからな」

仁 「我らは何をすればいい」

龍厳「魂徒たちが言霊で築いた霊道を用い、脅迫夢を見せてやっ

   て下され」

仁 「強迫観念を操り、脅すのか」

龍厳「策士、策に溺れる。警戒させ脅かせるればボロをだす」


 そこにある映像が流れた。魂界の住人である魂徒の一人が憑依した者が大東に喰い付いた。優秀な捜査能力を備えているその者が大東を調べ上げ、追い込むものだった。大東を追い込むため疑惑を持った会社に電話を入れた。その会社は表立った動きが見当たらなかった。食品会社を名乗るがその実態どころか活動そのものが疑わしい会社だった。小さな手掛かりから何とか電話番号を突き止め電話を掛けた。「はい、調布食品です」と電話口の女性が答えた。魂徒が憑依した者は電話を切った。これで存在が確認できた。二度目の電話で主旨を説明すると電話を切られた。後日電話をすると「もしもし」としか言わなかったが出た女性の声が同じだった。魂徒が憑依した者は社名を言わなかったことに違和感を覚えた。

 魂徒は憑依した者に状況を見せた。言葉を交わせば相手の状況がある程度つかめた。憑依された者が見たのは机に並べられた数台の電話だった。その電話にはそれぞれ違う社名の札が張り付かれていた。その社名はそのビルに入っている会社のものだった。そしてそのビルは甲野大臣の父が所有する物だった。その全てが実態がなく、社員や活動内容もないものだった。「幽霊会社」いや「悪の巣窟」だった。

 嗅ぎつかれたくないモノを嗅ぎつかれた。その焦りが目に見えて取れた。会社の存在を確認して大東を問い詰めた。食品会社に文房具の購入。金銭のやり取りだけとしても可笑しすぎる。それよりも大東に電話した途端、会社名を言わなかったことに着目した。明らかに政局的には対する甲野側と大東の繋がりが疑われた。憑依された者は、大東が甲野側に叱られる場面を見せられた。そこでは今後一切、調布食品や甲野側の管理するシステムに関わるなと釘を刺されていた。

 大東は高倉への攻撃でアドレナリンが出て黙っていられなかった。甲野家に迷惑を掛けなければいいんだ。一般人ならいいだろうと「言いたい、言いたい」という気持ちを発散させるようにWitterに調布食品と連弾した投稿者を「法的手段を用いて訴えてやる。家族もいるんだろ」と脅した。醜い本性を顕にした。  

 Witterでは「何の罪で訴えるんだ」とSNSを騒がせた。静かにしていろと言われてじっとしていられないのが三歳児知能だ。 

 しかし、三歳児の飼い主は伏魔殿の住人。甲野一派の裏には中酷の工作員が控えていた。事件を起こしても身元がバレる前に母国へと逃亡する。その道筋を援護するのが親中議員の重鎮だ。また、不可解な金の流れを掴んだ者に調布食品の大元の会社に納品書を偽造させ提出される、と噂を流され、恫喝の内容を吟味し判断できる経験のな追求者の勇ましさは姿を消していた。

 魂徒は憑依した勇敢な者に幾多の未来像を見せ、彼の心配事を丁寧に払拭していた。魂徒は憑依した者を洗脳し支配することを禁じられていた。トラブルに会えば納得した決意が見出されるまで地道に説くしかなかった。

 怯えは人の弱み。信頼できる仲間の有無。行動力と資金力。巨大な悪に立ち向かうには求心力が不可欠だった。魂徒の弱みは結束だった。独裁を防止するため組織化が禁じられていた。互いの弱みを補う事は可能だったがそこまで魂界は協力関係になかった。追求者は怯んだ。当事者にしか分からない恐怖を感じていた。その怯えを時間を掛けて憑依した魂徒に解いてもらうしか術がなかった。

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