第5話 洗浄行程
あの世とこの世
時間 空間 乗り越えて
脳内進入 思考憑依
脳波に光を当て 活動を牛耳る
行動パターンを読み取り 操作する
呪術 呪縛 廻旋準備
運が良ければ天国 悪けりゃ地獄
肯定 否定 洗浄行程
勝った負けたは結果次第
モニターに映し出された文字は判決の宣告をした後、被告人に対し、その将来について適当な訓戒をすることができる説諭の内容だった。人間界では、罪を犯した者に二度と行わないように罪を重く受け止め、改心することを願う言葉だ。被告人質問で、検察官が、被告人に対し、次々にいじわるな質問を投げつけ、被告人を追い込んでいく。疲弊した心のままでは投げやりになり再び罪を犯しかねない。訓戒は被告人に未来へに寄り添って告げられる。それは被告人による被害者を出さないためでもあった。
しかし、災高裁の判事の訓戒は違っていた。
「この者は、喉元過ぎれば熱さを忘れる。賠償金を負っても払えないと逃げる。再び悪友や愚かな偽善の支援者に癒され、暴言を吐くようになるのは確実。よって、自害か生涯刑務所に送り届ける罪へと誘う人間関係を見つけ出し、この者に与える。被害者は運命で定められた者。実行者を替えるだけだ。未来に大した変化は齎さない。既に雷界への進言は終えている。三厄神からは事故死もあると聞かされている。幸せの絶頂で。または落胆のどん底で。それは、被告人が選ぶ道次第だそうだ。何も出来ない現状に腹立たしさを覚える」とあった。
義 「これは私たちに対してのメッセージですね」
大王「裁く者の持つジレンマだな」
義 「と、言う事は他の閻魔大王からの協力も得やすいのでは」
大王「そう言う事だ。しかし、動くとは限らない。今までに動い
ていないのは動きたくても動けなかったという事だ」
義 「その原因は」
大王「死霊ではなく、生霊である事だ。だからこそ、人間界に関
わる魂界を巻き込んだ」
義 「大王はどうして魂界との繋がりを持つことが出来たのです
か」
大王「偶然のことよ。手強い餓鬼と対面しながら武器を持たぬ魂
界の者がおってな。その者が禁じ手というべき三厄神に接
近し、餓鬼と闘っておる。それはまだ継続中だ。リストの
繰り上げ、摺り替えの相談を死神に持ち掛けた折りに小耳
に挟んだことから魂界を探り、禁を犯しても闘う者を見つ
け出し、死神の仲介で話した迄の事よ」
義 「で、その者は」
大王「それが面白い奴でな、型破りな奴だった。魂界では一人前
になるのに三百~四百年が掛かるとされる。その間、歌舞
伎役者や落語家のように師と仰ぐ者に就いて修行を行うと
の事。一人前になるには修行中での人間界での現場実習の
成果だと聞いた。話した者はその掟に疑問を抱き、破っ
た。自分の権威を使って魂界の許可を得ず弟子を取り優遇
して育てた。その者の見立て通り、その弟子は順調に育ち
実績を残し、魂界もその者を認めた。弟子取り制度を変
え、修行年数も大幅に短縮させた」
義 「面白い者ですね」
大王「名を大言厳と言うてな当時は法師であり、指導者を指導す
る立場にあった。破天荒が災いして幾度か投獄されていて
その度に抜け道を見つけ出し脱獄した強者だ」
義 「雷界とは懐が深い」
大王「それが雷界も面白い。大言厳を褒めたそうな」
義 「掟を犯した者を褒める…、何故に?」
大王「不備を実証させて見せた。従うだけでなく自ら動いた。そ
れは指導者として必要不可欠な能力だと褒めたとのこと。
その経緯もあり、裏口入学でも能力があればそれを評価す
る、とした。入学は簡単でも卒業は難しいものに制度を変
えた。大言厳は言っていたそうだ。修業期間に限度がある
にも関わらず成果を上げられず人間界に転生させられる者
も少なからずいる。ならば、速く自分の適応性の有無に気
づかせ、脱界をさせるべきだと、ね」
義 「一理ある、やり方は兎も角」
大王「大言厳はその後も成果を上げ、最も雷界の側にいる者とな
っている。私たちにとっても都合のいい者だ」
義 「確かに」
大王「雷界の危惧する偽善者の繁殖だ。尤もらしい提言を大声で
訴え、その実、私腹を肥やし、神々が人間に備え付けた慈
愛を壊しているからな」
義 「先ほど観た映像の世界では厳格に取り締まっているようで
すがあれは…」
大王「あれは我らの知る人間界に酷似したパラレルワールドでの
出来事だ。極端だが羨ましい世界でもある。我らが天界の
描かれた世界に介入し、人の生死や行いに関わる事は、未
来を変える事にもなる。しかし、大言厳はこうも言ってい
た。人間界に関わる事は禁じ手とされていたが介入したと
ころで大きな変化はないと。関わる人物、結果がかわるが
大勢に変化はないと。寧ろ、小さな変化を起こすことでバ
グを排除できる。浄化できる。千年近く人間界を観てきた
結果だ、とね」
義 「千年、ですか…それは説得力がありますね」
大王「大言厳は明治後期から昭和の初期までは弟子の育成に費や
し関わっていなかったとも言っていた。それを残念がって
いた。その経験から異国とのやり取りの必要性も感じたと
のことで米国の不正選挙に端を発し、派遣しているとのこ
と。魂界の大革新に努めている」
義 「その改革に刺激されたように聞き取れますが」
大王「切っ掛けだ、切っ掛け。半信半疑で始めた冥土喫茶で変え
なければならいと確信しただけだ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます